『にじいろカルテ』にみる相互ケアの形 岡田惠和の筆致が生む豊かなコミュニケーション
相互ケアの場を生み出す岡田惠和脚本
今期のドラマには『俺の家の話』(TBS系)や『監察医 朝顔』(フジテレビ系)があり、『にじいろカルテ』とともに「介護」や「ケア」の物語が描かれ注目されている。テーマが一致する作品がこうして並ぶのは何も偶然ではない。高齢化に加えコロナ禍においてさらに、そうした問題に関心を寄せている視聴者も増えているのだと思う。医療従事者にだってケア“される”ことは必要不可欠で、反対にそうでないものもケア主体となって生きていくことの重要性が問われている時代ーー。
岡田惠和が『ひよっこ』(NHK)や『そして、生きる』(WOWOW)、『姉ちゃんの恋人』といった作品で描いてきたのはまさに、そうした「誰もがケアし、ケアされながら生きていく」姿だった。だから本作のヒロインが「医者」であり「患者」でもある=「ケアを施す側」であり「ケアを受ける側」でもあるというのは、とうとう真正面からそのことを描こうとしている意思の現れなのだと感じる。人々がともに支え合いながら生きていく『にじいろカルテ』を観ていると、その相互ケアこそが生を営むうえでもっとも重要なものだと考えさせられる。だから、「いいんじゃねぇの。医者で患者か、最強じゃん」なのだろう。
ときに、本音を隠して朔に毒づいてみせたりする姿がとても愛らしく映る高畑充希なのだが、それだけに彼女は、「ケアを受ける」「他人に悩みを吐露する」ことに難しさを抱える人物でもある。そんな真空は第2話において、患者の声に耳を澄ましすぎるばかりに緊急を要する次郎さん(半海一晃)の容態の変化に気づけなかった。そのことにすごく落ち込み、肩を落としてしまっていた姿が印象的だ。
そんな彼女を救うのが、桃井佐和子(水野久美)という、一人暮らしをしているおばあさんからの留守番電話であるところもすごく心に沁みる。ともすれば人に頼ることができず孤立してしまうかもしれない真空に対しても、虹ノ村の住人は方々に助け舟を出してくれている。真空を気にかける太陽(北村匠海)のさりげなさしかり、岡田脚本の登場人物はみんながそうしたケア主体であろうとしているから、観ていて心地がいいのかもしれない。佐和子さんと交わす第3話の電話でのやりとりも味わい深かった。
真空「もしもし?」
佐和子「もしもし? 真空先生……元気?」
真空「はい、元気です。……あぁ、ごめんなさい、嘘つきました。あの、元気じゃなかったんですけど、いま元気になりました」「佐和子さんは?……お元気ですか?」
佐和子「いま元気になったところ」
「元気?」と聞いてくれる人がいて、「元気じゃなかったけど、あなたからの電話のおかげでいま元気になった」と本音で話すことができる。そんな場がひとつあるだけで、どれだけ生きていくのが楽になるか。そうした相互ケアのあり方としての「人が話す場」を生み出していく本作の姿勢に、毎話否応なしに泣かされてしまうのだ。だからこそ『にじいろカルテ』は、観たあとに「ちょっとあの人に電話してみようかな」なんてことを思わせてくれる、そんな優しさに満ちたドラマなのだろう。
■原航平
ライター/編集。1995年、兵庫県生まれ。Real Sound、QuickJapan、bizSPA!などの媒体
で、映画やドラマ、YouTubeの記事を執筆。Twitter/ブログ
■放送情報
『にじいろカルテ』
テレビ朝日系にて、毎週木曜21:00〜21:54放送
出演:高畑充希、井浦新、北村匠海、安達祐実、眞島秀和、光石研、西田尚美、泉谷しげる、水野美紀、モト冬樹、半海一晃、池田良、水野久美
脚本:岡田惠和
演出:深川栄洋
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサ:貴島彩理(テレビ朝日)、松野千鶴子(アズバーズ)、岡美鶴(アズバーズ)
制作:テレビ朝日、アズバーズ
(c)テレビ朝日
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/nijiiro/