『コロンバス』から『サマーフィーリング』まで 様々な愛のかたちで過ごす“優しい時間”

 コロンバスの図書館(中国系アメリカ人の建築家、I・M・ペイが設計したクレオ・ロジャース記念図書館。1969年建設)で働く若い女性ケイシー(ヘイリー・ルー・リチャードソン)は、地元の建築物を深く愛しており知識も豊富だが、薬物依存症から立ち直ろうとしている母親と二人暮らしという家庭の問題を抱えており、大学で学ぶ機会を得られていない。そこに高名な建築学者の息子であり、翻訳家の仕事をしている韓国系アメリカ人のジン(ジョン・チョー)が、講演ツアー中に急に倒れた父親を見舞うためにソウルからやってくる……。

 ケイシーが愛するエーロ・サーリネン(先述したエリエル・サーリネンの息子)のアーウィン・ミラー邸のミラー・ハウス・ガーデン(1958年建設)をはじめ、アーウィン会議場(1954年建設)やノース・クリスチャン教会(1962年建設)、デボラ・バークのファースト・フィナンシャル銀行(2006年建設)など、映画の中には14の美しい建築物が丁寧に映し出され、モダニズム建築のフォトブックのようでもある。

 まさにコロンバスの建築こそが、この映画の映像美を支えるもうひとつの主人公と言えるだろう。本作は数々の映画祭での受賞歴を持つが、2017年ラーウェイ国際映画祭や2018年クロトゥルーディス賞では撮影賞(エリシャ・クリスチャン)に輝いている。

 ちなみに監督のコゴナダはもともとアカデミアの世界に居た映画の研究者であり、分析的なヴィデオエッセイを動画共有サイトVimeoで無料公開している。2012年1月に発表した『ブレイキングバッド/POV』を皮切りに、『小津/通路』(Ozu//Passageways)や『是枝裕和の世界』(The World According to Koreeda Hirokazu)、『タランティーノ/下から』(Tarantino//FromBelow)、『ウェス・アンダーソン/上から』(Wes Anderson)、『キューブリック/ワンポイント・パースペクティヴ』(Kubrick//One-Point Perspective)、『ヒッチコックの目』(Eyes of Hitchcock)、『ブレッソンの手』(Hands of Bresson)、『断片のゴダール』(Godard in Fragments)などなど……。

 いずれも短い動画なのでぜひチェックしていただきたい。また長編第2作として、A24の製作によるアレキサンダー・ワインスタインの短編小説を映画化したコリン・ファレル主演のSF映画『After Yang(原題)』が公開待機中。注目株の気鋭である。

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