『おちょやん』毒親テルヲ、なぜ豹変? 物語を動かす貴重なキャラクター
切っても切れないのが縁というものなのか。『おちょやん』(NHK総合)第37回で千代(杉咲花)の前に姿を見せたテルヲ(トータス松本)は、これまでにない奮発ぶりで娘のためにひと肌脱ごうとする。
「お父ちゃんがおまん主役にしたらあ!」とテルヲは所長の片金(六角精児)に直談判。「ハリウッドから誘われてる」とか、もうちょっとどうにかならないのかというレベルの嘘をつき、分厚い封筒を差し出す。中身はカフェー「キネマ」の割引券というオチだが、冗談としか思えない所行はいたって真剣。「一緒にてっぺん取ったろやないけ」と言うだけあって、めったにないステージパパぶりを発揮するのだった。
“毒親”テルヲの豹変をいぶかしむ向きも多いと思われるが、ありえないことではない。人たらしでろくでなしのテルヲは実は子ども思いの愛情にあふれた人間で、貧しい境遇のせいでそれができなかった、のではなく、テルヲはもともと自分が愛したものには情熱をそそぐタイプだった。鶏の流星丸しかり、栗子(宮澤エマ)しかり。他に大事なものがあった時には千代に愛情が向かなかったのが、家族に去られいよいよ行くあてもなくなって、女優として世に出ようとする娘が視界に入ったのだろう。
そういうわけでテルヲのことは信用していない。だいたい娘を借金のかたに入れようとする男だし、今回も千代を利用して甘い汁を吸おうとしているのではないかと警戒してしまう。とはいえ、擁護するのではないが、テルヲの中に親としての思いがなくなったわけでもないのだ。「わいの娘は日本一の女優になんのじゃい!」と大山鶴蔵(中村鴈治郎)に向かって叫ぶ時、テルヲは理屈抜きにそう信じているし、主演女優にケチをつけた時には「千代の方がよっぽどべっぴん」と心底思っている様子。テルヲのおせっかいが千代の背中を押したのも事実だ。
だからテルヲのことは嫌いになれない。サエ(三戸なつめ)や栗子が惚れた(?)だけあって、なんだかんだ言って良いところもあるのだ(悪いところはそれ以上にある)。テルヲが出てくるだけで物語が動き出すし、しっかりオチもつけられるので、作り手に重宝されるキャラなのだろう。今回もさんざんひっかき回したあげく片金に撃退され、しっかり役目を果たした。千代にとっても親の情に触れたことは今後の糧になるはず。視聴者としては、もう少し早くその優しさを見せてほしかったが。
千代だけでなく、小暮(若葉竜也)や滝野川恵(籠谷さくら)、一平(成田凌)も父親との関係を模索しており、彼らがどんな答えを出していくかにも注目だ。
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログ/Twitter
■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/