『おちょやん』山村千鳥一座篇を振り返る 若村麻由美×映美くららが体現した俳優の生き様

 足を怪我した清子の代役として「正チャンの冒険」で主役の正チャンを演じることになった千代。荒削りな芝居ながらも、失敗を機転で成功に導き、舞台を成功に導くだけでなく、一座の連帯も強めた。認められることで心に負った深い傷を癒す……千代も、千鳥もおそらく清子も、舞台の中に自分の居場所と進むべき道を見つけたのだろう。

 千鳥は千代に「自分の未熟さを行って思い知るといいわ。次に会うときはあなたの困り果てた顔をみるの楽しみにしてるから」と高城百合子が看板女優を務める鶴亀撮影所への紹介状を贈る。自分で決めたら誰の指図も受けない孤高の人、千鳥は一人で全国を回って自分を鍛え直すと一座の解散を決めてしまったが、それは出発であって違うかたちでの千代との再会を期待しているということ。

 千代は別れがたい人たちと出会い、成長し、こうして新しい“冒険”を続けていく。「正チャンの冒険」で千代が思わず「今までつらいことばっかりやったかもわからへんけど、大丈夫。きっとこれからはええことも仰山ある。みんな一緒に楽しい冒険つづけよう」とアドリブで言った台詞は、千鳥や清子の心にも刺さったはず。奇妙な出会いと別れを繰り返しながら大きく羽ばたく千代は、やはり王道のヒロインといえるだろう。

 若村麻由美、映美くららを中心とした山村千鳥一座との“冒険”は決して長い時間ではなかったが、千代がなぜ俳優として生きていくのか、なぜ芝居に人は魅せられるのか、その意義を描いた重要なパートだったように思う。

■池沢奈々見
恋愛ライター。コラムニスト。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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