『天気の子』は新海誠監督の“裏ベスト”? 2021年に繋がる世界の姿を考える
2019年の興行成績ランキング1位となった『天気の子』が、1月3日にテレビ朝日系で地上波初放送される。『君の名は。』で国民的監督となった新海誠の最新作とだけあって、注目度が高い。今回はテレビ放送に合わせて、今作の見どころと2021年だからこそ考えたいテーマについて迫っていきたい。
本作は、2016年に公開された『君の名は。』の新海誠が3年ぶりに発表したアニメ作品だ。監督・脚本・絵コンテなどの多くのセクションで名前がクレジットされているほか、プロデューサーの川村元気、キャラクターデザインの田中将賀、音楽はRADWIMPSの野田洋次郎など『君の名は。』のスタッフが再集結して作られている。『君の名は。』で作画監督をつとめた安藤雅司に代わり、同じくスタジオジブリ出身の田村篤がキャラクターデザイン・作画監督をつとめている。
見どころはなんと言っても、その息を飲むほどの美しい背景描写だろう。新海作品の知名度をあげた要因ともなり、現実に存在する景色の描き方が緻密で繊細なのだ。光を多用した映像表現に憧れて聖地巡礼に訪れるファンも多い。
新海作品では風景は第3の登場人物と呼ばれる時もあるほど、重要な効果を発揮している。今作では雨の描写に注目したい。時に激しく、時に優しく降り注ぐことで登場人物たちの孤独感や心情に寄り添う表現になっている。水や雨は透明でありながらも不定型、しかも誰もが毎日目にする日常的なものとあり、多くの作品が挑戦してきたが、今作は写実的なアニメ表現としては完成形の1つとまでいえる。
そして雲の描写にも注目したい。今作では気象研究者の荒木健太郎が監修をつとめており、科学的におかしな点がないか、専門家も交えて緻密に意見を交換しながら制作されている。雨や雲は作中で起きる災害に大きく関与するために、そこで嘘があってはいけない。それらが結びつくことで、観客の記憶を刺激し、かつてこのような天候が実際にあったように感じさせる。
このような派手な表現は多くの人に伝わりやすい。アニメファンとしては高速で展開されるアクションや、日常的でなんということのない動きに注目してしまいがちだが、それらはある程度の数の作品を見ないとなかなか伝わらないだろう。新海の描く風景はビジュアルからして圧巻であり、誰であってもその素晴らしさがわかるという意味で、万人に愛されるものだ。
新海が国民的作家となった理由は他にもある。過去作品を見ても、その当時の観客の思い、特に若者の感覚を作品に取り込むのがとても上手いのだ。
例えば商業デビュー作となる『ほしのこえ』は、世界の命運と個人の恋愛感情が直結する世界を描いているセカイ系の代表作とされ、アニメ・漫画などに大きな影響を与えた。『秒速5センチメートル』では過去の恋に縛られ続ける男性の恋心を、『言の葉の庭』では社会で疲れた女性と、大人の女性に恋をしてしまう男子高校生の気持ちを鮮やかに描き抜いた。
そして『君の名は。』は3.11以後の作品として注目したい。中盤の大きな展開となる彗星が絡んだ一連のシーンは、天災によって亡くなってしまう多くの命を連想させる。物語の中だけでもその運命から救いたい、という思いが観客に届き、ヒットしたのではないだろうか。