『姉ちゃんの恋人』は明け方の空の太陽と月のようだった 有村架純と林遣都が送り合った光

桃子と真人がともに見た夢

「休みの日に、私は家にいて。家の前でクラクションが鳴って、『え?』って見ると、彼が車で迎えにきてて。で、カップホルダーあるじゃないですか、車に。運転席と助手席に一個ずつ、わかります? そこに、私の好きなアイスラテがもう置いてあるんですよこれが。しかも、アイスコーヒーとアイスラテがふたつあって、『どっちでも選んでいいよ。俺、どっちでも好きだから』とか言って。で、湘南とか鎌倉とか江ノ島とかに行くんです。渋滞しても大丈夫、しりとり歌合戦します。J-POP縛りとかで。……それが夢。赤くて小さい車がいいなぁ」

 両親を交通事故で亡くして以来、車に乗ることにトラウマを抱えている桃子。それでも彼女はいつか車で好きな彼とデートすることを夢見ていて、そんな想いを真人に吐露する場面があった(第2話)。その直前のシーンで描かれていた、手を震わせる桃子に触れようとして触れられない真人の逡巡も印象深い。お互いに過去のトラウマや生きることの不安感を抱えていて、それが徐々に溶け合っていく、互いを包摂し合い生きていく様子がドラマを形づくっていた。

 第2話で桃子が見た夢は、最終話にて実現される。そこには車はないけど隣には確かに真人がいて、アイスコーヒーとアイスラテの代わりに真人が淹れてきたコーヒーとカフェラテがあった。

車のこと、簡単に克服なんかできないし、できなくたっていいと思うんだ俺は。できないことがあっても、不幸なわけじゃない。きっとできないぶん、ほかの幸せがあるから。ゆっくり進んでいこう。

 本作にはこういった優しさに包まれた言葉があふれていた。観覧車で真人が隠している真実を聞き出し、それを受けて「もっと好きになっちゃいました」と桃子が再度思いを伝える場面(第6話)。あるいは最終話の、みゆき(奈緒)と真人を含めた安達ファミリーが一堂に会してクリスマスパーティをする場面。そこでは、一人ずつ「いま抱えている悩みや心配事」を共有し、解決するのではなく「ただ受け止める」という安達家恒例イベントが催されていた。

 冒頭の「昼と夜」という彼女たちの生きる時間の違いにも現れていたように、桃子(や安達姉弟)はまるで「太陽」みたいで、真人はその光に徐々に照らされていく「月」のようだったこのドラマの前半。それがお互いの悩みが明かされ受容していくにつれ、太陽と月の立場がときおり入れ替わりながら、必要なときに必要な光をお互いに届けるようになったのが、本作の終盤だったように思う。太陽は月のどこかの面を照らすだろうが、反対側の面は暗いまま。だから悩みや恐怖がすべて解決されるわけではないかもしれない。それでも、先ほどの真人のセリフが示していたように、彼らはゆっくりと歩みを進め、きっと幸せを掴む。

 明け方にデートする彼らが、海を前にして再び「ある夢」を見るシーンで本作は幕を閉じる。その夢の中には真人の母もいて、食卓を囲みながら一緒に笑い合って、みんなで朝ごはんを食べている。きっとこの夢は実現する。そんな希望に満ちたラストだったように思う。派手ではないけど親しみやすく、光がいっぱいのラスト。『姉ちゃんの恋人』は、太陽と月のように我々が住む地球をずっと照らし続けてくれる、温かいドラマだった。

■原航平
ライター/編集。1995年、兵庫県生まれ。Real Sound、QuickJapan、bizSPA!などの媒体
で、映画やドラマ、YouTubeの記事を執筆。Twitterブログ

■作品情報
『姉ちゃんの恋人』
出演:有村架純、林遣都、奈緒、高橋海人(King & Prince)、やついいちろう、日向亘、阿南敦子、那須雄登(美 少年/ジャニーズJr.)、スミマサノリ、井阪郁巳、南出凌嘉、西川瑞、和久井映見、光石研、紺野まひる、小池栄子、藤木直人ほか
脚本:岡田惠和
音楽:眞鍋昭大
主題歌:Mr.Children「Brand new planet」(TOY’S FACTORY)
演出:三宅喜重(カンテレ)、本橋圭太、宝来忠昭
プロデュース:岡光寛子(カンテレ)、白石裕菜(ホリプロ)、平部隆明(ホリプロ)
制作協力:ホリプロ
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/anekoi/
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