『Mank/マンク』『シカゴ7裁判』など力作揃いのNetflixが席巻? 2021年のオスカーの行方を占う

 そして4年目となる今年、例年であれば賞レースをにぎわせてくれる主要なスタジオが軒並み弾不足に近い状態となっているなかで、Netflix勢は例年にも増して強力な顔ぶれが揃う。劇場公開をしなくても候補資格を得られる状況や、確たるライバル不在を利して、2020年の頂点獲りに本腰を入れているといっても過言ではないだろう。そのトップコンテンダーとなるのが、デヴィッド・フィンチャー監督の『Mank/マンク』であり、とりわけアカデミーのお年を召した会員たちから愛される『市民ケーン』の誕生をめぐる物語というのもプラスに働くことだろう。

Netflix映画『Mank/マンク』Netflixにて独占配信中

 脚本家ハーマン・J・マンキーウィッツがアルコール依存症と闘いながら、『市民ケーン』の脚本執筆で新鋭のオーソン・ウェルズと対立する様を、モノクロの画面と当時の映画をかなり意識した独特の音響で作りだす。しかも、実際に作品を観てみれば、『市民ケーン』の話というよりは、モデルになった新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストとの関係を回想していきながら、30年代のハリウッドの腐敗を描く政治劇ときた。現在のアメリカ社会にも通じるテーマ性と、古典映画への敬意。もはやアカデミー賞が好む題材が容赦なく詰め込まれているわけだ。

Netflix映画『Mank/マンク』Netflixにて独占配信中

 主演を務めるゲイリー・オールドマンの演技もさることながら、これまで『マンマ・ミーア』などで見せた良くも悪くもな“小娘感”をそのまま活かし、ハーストの愛人として30年代の映画界で浮き足立っていたマリオン・デイヴィスを体現するアマンダ・セイフライドの驚くべき好演。これは作品賞や監督賞をはじめとした主要部門のみならず、技術部門なども総なめにする可能性も充分にある力作だ。フィンチャーは10年前の『ソーシャル・ネットワーク』の雪辱をここで晴らすことになるに違いない。

Netflixオリジナル映画『シカゴ7裁判』Netflixにて独占配信中

 その『ソーシャル・ネットワーク』で、フィンチャーとタッグを組んだ脚本家アーロン・ソーキンが『モリーズ・ゲーム』につづいてメガホンを取った『シカゴ7裁判』も強力なタイトルだ。60年代後半に実際にあった反ベトナム運動の暴動をめぐる裁判を描いた本作は、俳優たちの見事なアンサンブルと、どこまでも硬派に作り込まれた法廷劇としての完成度が目を引く快作だ。10数年前に一度頓挫している企画ではあるが、この2020年の大統領選のタイミングで公開できたことはかなりのプラス要因。エディ・レッドメインやサシャ・バロン・コーエン、フランク・ランジェラ、マーク・ライランスといった面々が、主演か助演かどちらに振り分けられるかによって票割れの危険性を秘めているのがネックか。

 12月18日から配信される『マ・レイニーのブラックボトム』は今年のNetflixの三つ巴を確かに形成するダークホースとして、急激に評価を伸ばしている作品だ。“ブルースの母”と呼ばれたマ・レイニーの1927年のレコーディングを描いた作品で、8月に急逝したチャドウィック・ボーズマンの遺作でもある。タイトルロールを演じるヴィオラ・デイヴィスはもちろん、ボーズマンは史上3人目となる演技部門での死後受賞も確実視されているほど。23年ぶりの主演男優&主演女優のダブル受賞、もしくは29年ぶりの作品賞・主演男優・主演女優3冠もあるかもしれない。

 ほかにもアカデミー賞の常連メリル・ストリープとニコール・キッドマンが共演する『ザ・プロム』や、批評家からの評価は伸び悩んでいるがこちらも常連のエイミー・アダムスとグレン・クローズが共演した『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』、ジョージ・クルーニーが監督と主演を務めた『ミッドナイト・スカイ』。またスパイク・リーが手がけた『ザ・ファイブ・ブラッズ』や、チャーリー・カウフマンの脚本に高評価が集中している『もう終わりにしよう。』、大女優ソフィア・ローレンの演技が注目された『これからの人生』。アニメ部門ではディズニーの名作を数多く手掛けたグレン・キーンの長編監督作『フェイフェイと月の冒険』も。第93回のアカデミー賞はNetflixの独壇場となり、映画を取り巻いていたいくつもの常識が本格的に変わることになるかもしれない。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■配信・公開情報
Netflix映画『Mank/マンク』
一部劇場にて公開中
Netflixにて独占配信中
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ゲイリー・オールドマン、アマンダ・セイフライド、リリー・コリンズ、チャールズ・ダンス、タペンス・ミドルトン、トム・ペルフリー、トム・バーク
公式サイト:mank-movie.com

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