『危険なビーナス』のユニークな点とは? 矢神家の遺産をめぐる女の闘いは本格化
女の闘いに対して、第5話のもう一方の軸が父と子の葛藤だ。こちらは伯朗と康治のことで、そもそも義理の父を「さん」付けで呼ぶ時点でなかなかだが、寝たきりの康治を前にして「危険を冒してまでこの人を救いたいと思わない」と言ってしまう伯朗。こちらが思っていたよりも闇は深かった。明人や矢神家に対する伯朗の感情は、すべてこの後添いの父というフィルターを通して生じており、その根底に亡くなった母・矢神禎子(斉藤由貴)への思慕があることは明らかだ。
ただし、それだけで終わらないのが『危険なビーナス』のユニークなところで、ある出来事があって、康治との間に決定的な溝ができてしまう。あるいは、伯朗がなぜ獣医の道に進んだかを説明しているかもしれない。「この人をお父さんと呼ぶことは、もう一生できないだろう」。そこまでのインパクトがある体験だったのだ。いろいろあって「お父さん」と呼びかけて、結局、呼べずに終わった伯朗を見ると、やるせなさに胸が締め付けられる。
それより何より、親族の疑心暗鬼ぶりをこれでもかと見せつけるラストシーンの描写に身震いした。「この家はね、そういうわからないことだらけでできてんのよ」とは祥子の弁。マッドサイエンスな要素も出てきて、危険度はいや増すばかりである。
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログ/Twitter
■放送情報
日曜劇場『危険なビーナス』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:妻夫木聡、吉高由里子、ディーン・フジオカ、染谷将太、中村アン、堀田真由、結木滉星、福田麻貴(3時のヒロイン)、R-指定(Creepy Nuts)、麻生祐未、坂井真紀、安蘭けい、田口浩正、池内万作、栗原英雄、斉藤由貴、戸田恵子、小日向文世
原作:東野圭吾『危険なビーナス』(講談社文庫)
脚本:黒岩勉
プロデューサー:橋本芙美(共同テレビ)、高丸雅隆(共同テレビ)、久松大地(共同テレビ)
演出:佐藤祐市、河野圭太
製作:共同テレビ、TBS
(c)TBS