『あのコの夢を見たんです。』にみるテレ東深夜ドラマの歴史 妄想系モキュメンタリーの系譜を辿る

 2010年代のドラマを語る上で、テレビ東京(以下「テレ東」)による一連の作品を避けて通ることはできない。意欲的な企画でドラマファンの注目を集めてきた中心にあるのが金曜深夜(テレビ大阪のみ月曜深夜)枠の「ドラマ24」だ。

 ドラマ24の60作目となる『あのコの夢を見たんです。』(テレビ東京系)には、テレ東が培ってきた深夜ドラマのエッセンスが凝縮されている。原作は山里亮太(南海キャンディーズ)の同名小説。内容は実在の若手女優を主人公にした脳内ファンタジーで、甘酸っぱい学園ものから職場を舞台にしたお仕事ドラマ、ドラクエ風のRPGまで多岐にわたっており、最後にオチがつく点も含めて、完成度の高いエンタメ作品に仕上がっている。

 「なんでもあり」はテレ東のお家芸だが、深夜ドラマも例外ではない。ドラマ24の記念すべき60作目がお笑い芸人のジャンルレスなオムニバス作品だったことは、同局のチャレンジ精神を物語っている。池田エライザや芳根京子、森七菜たち豪華キャストが出演する『あのコの夢を見たんです。』は、モキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)と妄想系ドラマの要素を含んでおり、ともにテレ東深夜枠の得意分野だ。

 モキュメンタリーとテレ東深夜ドラマの関係について、ここでは詳細に立ち入らないが、『山田孝之の東京都北区赤羽』や『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』、『バイプレイヤーズ』シリーズ、今年4月から7月にかけて放送された『捨ててよ、安達さん。』など多彩なラインナップを擁する。いずれも俳優が本人役で出演しており、現実を舞台にした設定が生々しいリアリティを生んでいた。

 妄想系ドラマの代表は、映画化され、大ヒットした『モテキ』や鈴木浩介主演の『癒されたい男』だろう。山里の妄想をベースにした『あのコの夢を見たんです。』は、純然たるモキュメンタリーではないが、ヒロイン本人のキャラクターを借りている点で『捨ててよ、安達さん。』にも通じる。

 60作記念の本作には、過去のテレ東深夜ドラマへのオマージュがたびたび現れる。第2話で、勇者に選ばれた芳根に『勇者ヨシヒコ』のDVDを渡すシーンがあったり、大原櫻子がヒロインの第5話で、マカロニえんぴつの歌う主題歌が、大原が主演を務めた『びしょ濡れ探偵 水野羽衣』のオープニングテーマ「Supernova」だったりと、随所に過去作とのリンクが張られている。モキュメンタリーもそうだが、こうしたメタ視点あるいは作品自体の持つ批評性は、単なる遊び心を超えたテレ東深夜ドラマの特質である。

関連記事