『エール』二階堂ふみがむせび泣く姿が切なすぎる “夢のつづき”の前に突きつけられた“現実”

 オペラ「ラ・ボエーム」の最終審査に合格した音(二階堂ふみ)だったが、それは実力によるものではなく“古山裕一の妻”であることを利用した宣伝目的の優遇からだった。ハイレベルなレッスンについていくことができない音。『エール』(NHK総合)第104話では、審査員の一人であり同級生でもある千鶴子(小南満佑子)が音に真実を伝える。

 最終審査で音に投じられていた票はゼロ。そこにやってきた常務の脇坂(橋爪淳)が、そのネームバリューから音を推し計らい出演の機会を与えていた。実力主義の千鶴子も音には票を入れてはいないものの、レッスンで日々苦しんでいる彼女の姿を見て一緒になって悩み、打ち明けることを決心した。

 合格の真実、そのことを音以外のキャスト全員が知っていたことを聞き、音は愕然とする。悔しさをバネになんとしてもいい舞台にするーー千鶴子のような気丈さを持ち合わせていない音は、演出家の駒込(橋本じゅん)に降板を申し出る。脇坂の顔がチラついたのか必死に考え直すよう音を説得する駒込に、意志を尊重すべきだと申し出を受け止める相手役の伊藤(海宝直人)。それぞれの心情がバラバラなのが透けて見える、見ていてつらい光景だ。

 別のオーディションを受けることを勧める裕一(窪田正孝)に、音の返事は「もういいかな……少し疲れちゃった」。きっと、受けてもまた“古山裕一の妻”という目で見られてしまう。根本的な実力と覚悟のなさ以外にも、音の歩みを止める理由はあったはずだ。

「大人になるといろんなことが見えてきてしまう。分かってしまったんです。私はここまでだって」

 お腹の中にいる華(古川琴音)に出会うため降板を申し出た音楽学校時代とは、今回はわけが違う。突きつけられた現実。無力による悔しさ。なによりも、歌手として大きな舞台で歌うという裕一との夢を叶えることができなかったことに、音はむせび泣く。「ごめんなさい」ーーそう何度も謝る音を、裕一は後ろからそっと抱きしめる。

 半月後、裕一が音を連れて行ったのは、孤児院・マリア園にある教会。そこで裕一は「もう一度歌ってくれないかな?」と音を誘う。近所の子供達に歌を教え、歌う喜びを再び見出したあの時のように。もう一度、教会という場所から。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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