MCUは本格的にマルチバースへ? 原作から考える『ワンダヴィジョン』予告編に散りばめられた謎
まず、この予告で注目すべきは、2人に双子の子どもが産まれていることです。原作コミックでは、この2人はウィッカンとスピードという超人です。ウィッカンとスピードは2代目ホークアイことケイト・ビショップ、ミス・アメリカという異界から来た超人少女らと共にヤング・アベンジャーズなるチームを結成します。その名が示すように、若者ヒーローで構成されたアベンジャーズですね。ケイト・ビショップはこの先MCUドラマ『ホークアイ』に登場、またミス・アメリカはこの『ワンダヴィジョン』と内容的につながると言われている、映画『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス(原題)』に登場と言われており、MCUにヤング・アベンジャーズを登場させるための布石でしょうか?
2つ目は新組織ソードの紹介。この予告でシットコムのシーンとは明らかにトーンの異なる場面が出てきます。異次元みたいなところから黒人の女性が吹き飛ばされ仰向けに倒れているシーン。彼女はモニカ・ランボー(演じているのはセヨナ・パリス)というキャラ。このキャラは映画『キャプテン・マーベル』に登場した、あの黒人の女の子が成長した、という設定です! 彼女はシールドに続いて出来たソードという組織のエージェントと言われており、ソードがついにMCUでも描かれるわけです。
3つ目はMCU初のマルチバースもの、ということです。マルチバースというのはアメコミに欠かせない設定で、この宇宙には可能性の数だけ様々な世界があり、それらはお互いパラレルワールドのように存在しているという考え方です。先にも書いたように『ワンダヴィジョン』は、映画『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス』につながると言われています(正確に言うと、ワンダがこの映画に登場するらしい)。『ワンダヴィジョン』はワンダが作り出した“もう一つの現実”を描き、『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス』はタイトルどおりマルチバース(多元宇宙)がテーマですから、MCUがマーベル・シネマティック・マルチバース化するためのきっかけとなる作品ともいえるわけです。
若い世代のヒーロー、新組織ソード、マルチバースはたしかにフェイズ3までのMCUにはなかったアイデアなので、これらがそろっている『ワンダヴィジョン』というのは結果的にMCUフェイズ4のキックオフに相応しい作品だったと言えるかもしれません。
そのほか、途中で出てくる「あたし死んだの?」とヴィジョンに聞くキャラは、恐らくコミックでワンダの師匠となる魔女アガサ・ハークネス(演じるのはドラマ『女検死医ジョーダン』などのキャスリン・ハーン)です。また、ワンダの能力で改変される部屋にかかっている絵にはボヴァという牛人間キャラが描かれています(ボヴァはワンダの乳母としてコミックには登場しました)。そしてこれは海外のファンサイトの受け売りですがよーく見ると『マイティ・ソー』『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』に出てきたジェーンのアシスタントで眼鏡姿がかわいい女性のダーシー(演じるのは カット・デニングス)の姿も写っているようです。
さらにコミックの方ではワンダの能力が暴走して世界そのものが変わってしまう「ハウス・オブ・M」というエピソードがあるのですが、この予告に登場するワイン(宙に浮いている)のラベルがこれから「ハウス・オブ・M」事件が起こることを示唆しているとの指摘もあります。途中、ハロウィンかなんかでワンダがみるからにコスプレっぽい赤い魔女姿に、ヴィジョンがヒーロー姿になりますが、これは原作コミックのワンダとヴィジョンのコスチュームをイメージしたものです。ある種のファンサービスですかね(笑)。
こういうマニアックな楽しみもありますが、予備知識なくてもとにかくエリザベス・オルセン演じるワンダが本当にキュートだし、もう会えないと思っていたヴィジョンに再会できることは嬉しいですね。『ワンダヴィジョン』は年内日米同時配信だそうです。コロナ禍の中、MCUがファンに贈る最高のプレゼントになりそうです。
■杉山すぴ豊(すぎやま すぴ ゆたか)
アメキャラ系ライターの肩書でアメコミ映画に関するコラム等を『スクリーン』誌、『DVD&動画配信でーた』誌、劇場パンフレット等で担当。サンディエゴ・コミコンにも毎夏参加。現地から日本のニュース・サイトへのレポートも手掛ける。東京コミコンにてスタン・リーが登壇したスパイダーマンのステージのMCもつとめた。エマ・ストーンに「あなた日本のスパイダーマンね」と言われたことが自慢。現在発売中の「アメコミ・フロント・ライン」の執筆にも参加。Twitter
■配信情報
ディズニープラスオリジナルドラマシリーズ『ワンダヴィジョン』
2020年末、ディズニープラスにて日米同時配信
監督:マット・シャックマン
脚本:ジャック・シェイファー
出演:エリザベス・オルセン、ポール・ベタニー
原題:WandaVision
(c)2020 Marvel