『半沢直樹』最後の戦いへ “バンカーズ・ハイ”を更新する倍返しのエッセンス

 すごいものを観てしまった。2020年の日本の地上波で放送される連続ドラマで、これだけ熱の込められた、あまりにまっとう過ぎてフィクションという次元もはるかに超えるような、文字通りの“事件”を目にするとは。終盤で半沢(堺雅人)がホテルに到着し、黒幕と対面してからは、一瞬たりとも画面から目をそらすことができなかった。

 『半沢直樹』(TBS系)第9話では、箕部(柄本明)に脅されて自宅謹慎を命じられた半沢が、黒崎(片岡愛之助)の「伊勢志摩ステートを調べろ」というヒントを元に、渡真利(及川光博)や富岡(浅野和之)、大和田子飼いの福山(山田純大)、元銀行員の智美(井川遥)らと黒い金の流れを明らかにしていく。

 その過程で、半沢の意思とは別に、頭取や大和田(香川照之)の命を受けて動いている者がいることも発覚。しかし仲間内のほころびから、箕部がクロであることを示す決定的な証拠をあと一歩のところで取り逃がしてしまう。それは同時に一連の不祥事の黒幕をあぶり出す結果にもなった。

 簡単に言うと、箕部がしていたのは原野商法の反対で、二束三文で買った郊外の土地に空港を誘致して値を吊り上げ、後から高額で売りさばくというカラクリだが、足跡がつかないように地元の不動産会社を隠れ蓑にしていた。帳簿上は現金決済で処理し、伝票は紀本たちが保管。情報が漏れないよう口止め料を払うという念の入れようである。

 銀行合併にともなう負の遺産という原作のテーマがここに来て全面化してきた印象だ。前作で浅野支店長(石丸幹二)に10倍返し、常務だった大和田に100倍返しを達成した半沢だが、第9話ではついに1000倍返しも登場。前作は、半沢個人の復讐という面もあったが、今作では、バンカーとしての大義に立った勧善懲悪の側面がより強く出ている。

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