段田安則、“バランサー”としての高い演技力 『半沢直樹』シリーズの中でも一味違う悪役に
最終回まで残り2回となった日曜劇場『半沢直樹』(TBS系)。6年前に負けず劣らずの熱い展開を見せてくれている。“敵の敵は味方”とも言うべき形で犬猿の仲であった半沢(堺雅人)と大和田(香川照之)が利害の一致で協力関係にあるのもシーズン2後半戦の面白いところだろう。
では、“悪役”として誰が半沢の前に立ちはだかっているか。現在のところラスボスは進政党幹事長・箕部啓治(柄本明)と思われるが、その箕部と繋がり東京中央銀行内で敵対関係にあるのが、段田安則演じる紀本平八だ。ライターの田幸和歌子氏は“悪役”として好演を続ける段田について次のように語る。
「段田さんはその姿を見ないことがないと言っていいほど、90年代~00年代は連続ドラマに出演され続けていました。遠藤憲一さんや松重豊さんが“バイプレイヤー”と呼ばれて記憶に新しいですが、バイプレーヤーの先輩として段田さんも凄まじい活躍をされていました。近年は1年に5作品の舞台に出演されていたり、舞台に軸を置いていたようですが、今回の『半沢直樹』もコロナ禍によって舞台が中止になったことで出演する時間ができたようなんです。もちろん、舞台の中止は残念なのですが、こうして連ドラで、しかも『半沢直樹』で段田さんを観ることができるのはうれしい限りです。今回、『半沢直樹』で改めて本当に演技が上手い方だなと感じています」
癖が強すぎる『半沢直樹』の登場人物たちの中で、段田が演じる紀本は“普通の人”と思われた。しかし……。
「シーズン1から半沢の周囲には“頼れる上司”キャラが少なく、ほとんどが利己的な人物ばかりでした。なので、シーズン2で紀本さんが登場したときは、『やっと“普通の人”が登場した』と思ったんです。味方なのか敵なのか分からない雰囲気はありつつも、癖の強すぎる人たちの中でまともな話ができそうというか。もしかしたら半沢の助けになるのでは?と思っていたら、結局そんなことはなかったのですが(笑)。“濃厚”な俳優さんたちが多い中で、味わいに変化をもたせられる役者であり、それでいて味わってみると誰よりも強烈な味も持っている。作品の中でバランサーとしてのお芝居ができるのは、本当に演技力がある方だからです。
段田さんの過去作を振り返ると、シリアスな作品からコメディまで本当に幅広いジャンルの作品に出演されています。その中でも段田さんの演技力が活かされるのは、『半沢直樹』の紀本もそうですが、“二面性がある役柄”だと思います。完全に振り切った悪役とも言えますが、1998年のドラマ『聖者の行進』(TBS系)では製作所の社長であり地元の名士という表の顔を持ちながら、裏では知的障害者たちに不当な労働を強いて、さらに女性にも暴行しているという最低な人間を演じていました。段田さんの演技が上手すぎることもあり、放送当時は事務所にクレームまで入ったそうです。NHK朝ドラ『ふたりっ子』では、愛する妻と娘がいたにも関わらず、憧れの歌手を追いかけて家を出てしまうというダメ親父・野田光一を演じました。光一の行動だけを見れば最低なのですが、段田さんが演じると愛すべきダメさと言いますか、非常に人間臭い魅力があったんです。近年では『64(ロクヨン)』(NHK総合)の演技も本当に素晴らしかったです」
また、段田の良さは“大きな芝居”をしないところにあるが、『半沢直樹』ではまた違った一面を見ることができるのではないかと田幸氏は続ける。