ゴールデングローブ賞を決める87名の外国人記者協会 老舗組織に突きつけられた独占禁止法違反訴状

 話をアカデミー賞に戻そう。2012年にロサンゼルス・タイムズ紙は、映画芸術科学アカデミーに所属するメンバー5765人の構成比率は、白人が94%、男性が77%、黒人は約2%、ラテン系は2%未満という調査結果を発表した。メンバーの年齢中央値は62歳、50歳未満の人は会員のわずか14%でしかないという。メンバーシップは終身で、数百人はすでに10年以上前に現役を退いている。ちなみに、調査が行われた2012年の第84回アカデミー賞の受賞結果は、作品賞に『アーティスト』、監督賞にミシェル・アザナヴィシウス(『アーティスト』)、脚本賞がウディ・アレン(『ミッドナイト・イン・パリ』)、主演男優賞に『アーティスト』のジャン・デュジャルダン、助演男優賞はクリストファー・プラマー(『人生はビギナーズ』)、主演女優賞はメリル・ストリープ(『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』)、そして助演女優賞にオクタヴィア・スペンサー(『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』という結果だった。また、イラン映画として初めて『別離』(アスガー・ファルハディ監督)が外国語映画賞を受賞したことも付記しておく。

 ロサンゼルス・タイムズの調査から8年後の現在、AMPASのメンバーは約2300名増え、2012年以降に参加した人数は全メンバーの1/3ほどになる。多様性のある新規メンバーの増加は、2015年に始まった主演・助演男優部門の20人の候補者がすべて白人であることに対するハッシュタグ#OscarSoWhiteや、第92回アカデミー賞の監督賞候補が全て男性だったことに対する抗議への返答のように受け取ることができる。

 少なくともハリウッド界隈や映画会社にとって、アカデミー賞の行方を占う上で重要な賞とされているゴールデングローブ賞は、アカデミー賞の1/10に満たない投票者によって決められている。年齢も性別も国籍も全く明かされていない87名の外国人が選んでいる賞なのだ。例えば、同じように前哨戦とされる全米映画俳優組合賞(Screen Actors Guild Awards)に投票する全米俳優組合と米国テレビ・ラジオ芸能人組合(SAG-AFTRA)の会員数は公式ホームページによると約16万人。アカデミー賞の監督賞との一致が多いとされる全米監督協会賞を決める全米監督協会は18000人が名を連ねている。AMPASがアカデミー賞の候補者リストに多様性が欠けているのはメンバーの属性分布に問題があると考え行動を起こしたように、様々な組織にも包摂性の波が訪れている。今回のHFPAに対する訴訟はSNSでのハッシュタグのようなムーブメントから始まったものではないが、ハリウッドでの影響力を鑑みると決して無視できないものだ。世間に影響を与える大きな賞を主催する組織として、入会基準の明朗化は当然とも言える。逆を返すと、新型コロナウイルスの猛威により映画の上映がままならない現在、映画賞や取材活動のあり方自体を考え直すときが来ているのかもしれない。

参考

https://www.latimes.com/entertainment/la-et-unmasking-oscar-academy-project-20120219-story.html
https://www.hollywoodreporter.com/thr-esq/golden-globes-hfpa-hit-antitrust-suit-excluding-foreign-journalist-1305734
https://variety.com/2020/film/news/kjersti-flaa-hollywood-foreign-press-association-lawsuit-1234725121/

■平井伊都子
ロサンゼルス在住映画ライター。在ロサンゼルス総領事館にて3年間の任期付外交官を経て、映画業界に復帰。

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