『映画ドラえもん』新作のタイトルはなぜ“新”恐竜なのか 新たなイメージの構築は成功?

 一方で、教育的な面の描き方に難しさを感じたとも触れておきたい。本作ではキューとミューが代表されるように、ドラえもんたちの味方となる恐竜は可愛らしくデフォルメされた姿で登場している。一方では獰猛で恐ろしい恐竜たちはCGで描かれるなどの工夫が施されているのだが、弱肉強食となってしまう自然環境の恐ろしさが強調されている。そんな世界で生き残るためにキューが空を飛ぶために奮闘する姿、そしてのび太がそれを応援し、時には熱く指導する姿が印象に残った。

 もちろん、のび太としては過酷な自然環境の中で生き残るために必死になっており、100%キューのための行動である。しかし、本来ならばキューと同じようにできない子側であり、「みんなと同じようにしなさい!」という説教に対して苦しみを覚えているはずののび太が、大人たちと同じことをしてしまう。その描写は現代ではパワハラのように受け取られかねないものだった。子を思うあまりの親の心情を反映した描写とも受け取れるが、ドラえもん映画が表現してきている、子どものためになる教育のあり方の難しさを感じるものだった。

 ドラえもんで恐竜というと、やはり『ドラえもん のび太の恐竜』を思い浮かべる方も多いだろう。声優陣が一新した際にも『ドラえもん のび太の恐竜2006』としてリメイクされるなど、数多く存在するドラえもん映画の中でも象徴的なタイトルだ。今作は過去作のリメイクではなくオリジナル作品だが、“新恐竜”とすることで未知の恐竜であるキューとミューを表すとともに、過去のドラえもんの要素を受け継ぎながらも、新たなるドラえもん像を構築していこうという心意気が伝わってくる。

 50周年記念ということもあり、その並々ならぬ覚悟と気概を持って制作してきたのは間違いないだろう。そしてその試みは、多くの面で成功したといえる。特に『ドラえもん』シリーズは過去5年で見ても、どの作品も甲乙付け難いほどの高く安定した作品を多く生み出している他、中国をはじめとした海外でも人気を拡大し、世界的なキャラクターになってきている。当面はアニメ映画50作目の金字塔を目指し、今後も過去作の良きところを踏襲しながらも、その時代ごとの子どもたちに寄り添い続けるドラえもん像を築き上げていってほしい。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■公開情報
『映画ドラえもん のび太の新恐竜』
全国公開中
原作:藤子・F・不二雄
監督:今井一暁
脚本:川村元気
キャスト:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、木村拓哉、渡辺直美
主題歌:Mr.Children
配給:東宝
(c)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2020

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