竜星涼&犬飼貴丈、“2大ヒーロー”が拓いた世界 『ぐらんぶる』は“教育映画”の側面も!?

 誰もが否が応でも不自由を強いられる2020年の夏。真っ青に輝く海でひと泳ぎし、大勢でバーベキューの火を囲んで生ビールで乾杯ーーと、そううまくいかないのが今年の夏なのである。しかし、そんな夏を最高に謳歌できる映画がここにあるのだ。それが『ぐらんぶる』。ダブル主演を務めている竜星涼と犬飼貴丈のハジける姿に、この夏を託したい。

 離島にある大学に入学し、キラキラ輝く海辺のキャンパスライフを夢見ていた北原伊織(竜星涼)だが、そこで待っていたのはとんでもない日々だった……。本作のあらすじは、おおよそこんなものだ。憧れの生活と現実の生活とのギャップに主人公が苦しむ物語とは、青春劇にはよくあるもの。しかし本作が他の類似作品と一線を画すのは、映画のジャンルがコロコロと変わっていくところにある。


 そもそも本作は、一応は“青春ダイビング映画”だと謳っているが、これは怪しい。メガホンを取った英勉監督自身も公式コメントにおいて、「『ダイビングに賭ける青春と恋と友情。さあ、海の世界へ』という宣伝が展開されると思いますが、違いますから。詐欺ですから」との言葉を発表している。なぜなら107分という上映尺のうち、本格的にダイビングシーンが展開するのは残り30分ほどになってから。つまり、上映時間の70パーセントほどが“ダイビング以外”の青春劇に費やされるのだ。光が揺れる海底のシーンよりも、竜星や犬飼らがバカ騒ぎするさまの方が記憶に残るのである。

 本作がすごいのは、何といっても原作であるマンガからの脚色だ。誰だって、お酒の飲み過ぎで飲酒時の記憶があやふやになった経験はあるはず。大酒飲みの方ならば、記憶喪失どころか、目覚めたときに「ここはどこだ?」なんてこともあるに違いない。筆者も平時であればしょっちゅうである。本作ではそんな“飲酒による記憶問題あるある”を、あたかも“タイムリープ”したかのように描いているのだ。だから予告編にも観られるように、竜星や犬飼が全裸で大学内を訳も分からず走り回っているというわけである。そう、彼らが強引に引き込まれたダイビングサークルは、酒を飲む度にみなが脱ぐのだ。


 原作ではわりと早い段階で主人公の二人がサークルの一員となるが、この映画では、最後の最後まで「早くサークルを辞めてしまいたい。実家に帰りたい」と考えている。そういった脚色によって、本作は単なる“おバカな青春劇”ではなく、“どんでん返し映画”の要素も兼ね備えているのだ。事前情報なく鑑賞すれば、必ずや驚かされることだろう。というわけで、竜星と犬飼が扮する大学生の奮闘姿が本作の大部分を占めている。

 伊織と今村耕平(犬飼貴丈)の目的は同じで、サークルの先輩たちから逃げ出すこと。目的達成のため何度も訪れる彼らの“裸の付き合い”には、言葉では説明がつかない奇妙な“友情”のようなものが感じられる。その根拠として、同じ環境下に置かれているということがいえるだろう。逃げても逃げても、愉快な音楽が聞こえてくれば自然と体が踊り、ついつい深酒。私たちがこの夏に体験することが難しい光景だからこそ、彼らのその姿は輝きを放って見えるのだ。

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