『ストーリー・オブ・マイライフ』が描く生と死の円環 疾走し続ける4姉妹のきらめき

 映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』は、その完璧なフォルムがあえなく瓦解し、さらにはメンバーのひとりが早々と命を落とし、再結成が絶望的なものとなる、その諦念をなんとか小説/映画に置換して切り抜けようとする次女ジョー(≒作者ルイーズ・メイ・オルコット)の防御的闘争の現場なのだ。原作小説のタイトル「Little Women」。明治時代の日本では「小婦人」などと訳されたこともあったようだが、お父さまからの手紙の書き出しがいつも「わたしの小さな女性たちよ」と娘たちへの呼びかけから始まっていることから来ている。Little Womenという名の完璧なグループが瓦解を余儀なくされたあと、秋風蕭殺たる時間経過を耐えつつ、おのがじし武装によってA Womanとして孤軍奮闘を余儀なくされていくプロセスを、カードゲームのテンポで取っ替え引っ替え、停滞を恐れつつ語り倒していく。グレタ・ガーウィグのそうしたせっかちな手つきは成功した。19世紀、南北戦争時代の女性グループを見せるという点で先行した『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』(2017年)のソフィア・コッポラがしくじっているのとは好対照をなしている。

 妹ベスという死者からの激励が、これから『若草物語』を書こうとする姉の筆を推進していたとすれば、姉の書く文という文も、亡き妹への追悼文にちがいなく、最終的に姉の文が一冊の本になっていくプロセスはーー活字が組まれ、白い紙の束がプレスされ、糸で縫い閉じられ、赤い革表紙をほどこされ、「Little Women」という金印が押されるプロセスはーー、石が削り出され、磨かれ、文字が彫られる、いわば墓碑銘の作成プロセスそのものとなる。本とは墓のことである。完璧なグループの解散宣言であり、生と死の円環である。そのプロセスを満足げに眺めるジョー(シアーシャ・ローナン)のアップは、かぎりなく透徹したものとなっている。彼女は墓を建てることの秘儀的な快楽を知ってしまったのだから。

■荻野洋一
番組等映像作品の構成・演出業、映画評論家。WOWOW『リーガ・エスパニョーラ』の演出ほか、テレビ番組等を多数手がける。また、雑誌「NOBODY」「boidマガジン」「キネマ旬報」「映画芸術」「エスクァイア」「スタジオボイス」等に映画評論を寄稿。元「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」編集委員。1996年から2014年まで横浜国立大学で「映像論」講義を受け持った。現在、日本映画プロフェッショナル大賞の選考委員もつとめる。
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■公開情報
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
全国公開中
監督・脚本:グレタ・ガーウィグ
原作:ルイザ・メイ・オルコット
出演:シアーシャ・ローナン、ティモシー・シャラメ、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレン、エマ・ワトソン、ローラ・ダーン、メリル・ストリープ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:storyofmylife.jp
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