『スイッチ』は“坂元裕二オールタイムベスト”? コロナ禍の現実では『Living』と真逆の印象に

 もう一点は、物語の折り返し地点で明らかになる駒月と蔦谷の過去。

 被害者の入院する病院を訪れた駒月は、被害者を襲う暴漢を羽交い締めにして襲撃を防ぐ。マスクをとると暴漢はなんと蔦谷。駒月は彼女の行動を予測して病院で待ち構えていたのだ。二人は学生の時に両親をトンネルの落盤事故で亡くしており、手抜き工事の原因を作った県知事を蔦谷は殺そうとした。その時は駒月が止めて、10年後に別件で知事を刑務所に入れたのだが、それ以降、ヒドイことをしても裁かれずにいる人間を見ると“スイッチ”が入り、衝動的に犯人を殺そうとし、その都度、駒月が立件して蔦谷の殺人を防いできたことが明らかになる。

 蔦谷は「刑務所から出てきたらあいつを殺す」と今でも思っているのだが、このあたりは『それでも、生きてゆく』(フジテレビ系)を彷彿させる。本作は被害者の救済を入り口に、最終的には殺人を起こした加害者の救済まで描こうとするが、最後の最後で苦い断絶を(被害者と加害者が)経験する姿が描かれる。「加害者の救済」は坂元が繰り返し描こうとする難しいテーマだが、このテーマまで盛り込むのかと驚いた。

 そして、ここで二人の思い出の曲としてカラオケで歌われるのがJUDY AND MARYの「LOVER SOUL」なのだが、この選曲も『最高の離婚』を観ていた人なら思わずニヤリとするものだろう。

 その意味でも「坂元裕二オールタイムベスト」みたいな作品だが、美味しいところを詰めこんだ結果、本人による二次創作を見せられているような気持ちになるのは若干複雑である。

 一方、ついつい気になったのが、コロナ禍の描き方だ。

 おそらく撮影はコロナの流行以前に済んでいたため、仕方ないとは頭ではわかるのだが、劇中でのマスク着用やソーシャルディスタンスに対する配慮のなさ、登場人物が直接、肌に触る場面が気になってしまい、その度に気持ちが離れてしまった。

 監視カメラなどの描写から推察するに2020年2月中の話なのだろう。そう考えるとギリギリセーフとも言えるのだが、劇中で宮崎駿や宮本茂といった現実の固有名詞が登場するリアルな作品だったからこそ生まれた違和感だったのかもしれない。

 宮藤官九郎もそうだが、坂元裕二は固有名詞の作家で、現実に存在する商品や人物名を登場人物に言わせることで物語のリアリティを高めており、だからこそ、震災以降の現実を切る取ることができた。

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