『若草物語』に『ミッドサマー』も 話題作への出演続くフローレンス・ピューの“陰と陽”の魅力
『若草物語』光の行方
グレタ・ガーウィグとシアーシャ・ローナンによる、映画作家と女優の決定的な結びつきに感極まる大傑作『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』(グレタ・ガーウィグ監督/2019年 以下、『若草物語』)において、フローレンス・ピューは、四姉妹の末っ子・エイミーの像に新たな息吹を吹き込んでいる。四姉妹による物語上での、そして演技上でのオーケストラ的、交響楽的なアプローチ(四姉妹のお喋り!)がとられた本作において、エイミーは主人公ジョー(シアーシャ・ローナン)と同じように情熱的ではあるが、どこか現実感を滲ませているところが夢想家であるジョーとの最大の違いであり、本作のコントラストにもなっている。四姉妹それぞれが属するところ(ジョーなら小説、ベスならピアノ)とキャラクターの造形を、各々のファーストショットで適確に示していくグレタ・ガーウィグの冴えわたった演出に倣い、エイミーは陽だまりの下で絵を描くシーンで登場する。ジョーとローリー(ティモシー・シャラメ)による、身振りが情熱を生んでいく素晴らしいダンスシーンに象徴されるように、『若草物語』では感情の機微が、俳優のジェスチュアと交錯する視線の数々によって映画の文法として華開いている。
それはローリーをめぐる二人の女性の対比にも見出せる。エイミーは陽だまりの下でローリーを発見する。ジョーは暗がりの部屋でローリーを発見する。この二つのシーンで、グレタ・ガーウィグは、ローリーの二人の女性に対する感情の躍動にコントラストを加えている。大きな光に照らされて登場したにも関わらず、その恋がほとんど報われないように見えてしまうエイミーは、これまでのフローレンス・ピューが演じてきた肖像の在り方に倣っている。しかし、グレタ・ガーウィグとフローレンス・ピューは、エイミーという肖像にジョーとはまったく違った形で、独立した一人の女性としての光を当てる。絵描きになる夢を諦めたエイミーに「自分を描いて(素描して)ほしい」とお願いをするローリーのジェスチュアこそが新たな光の絵の具になっていく。冒頭でエイミーを照らした陽の光が、思いの成就をそう簡単には導いてくれなかったように、それは必ずしも完璧な幸せを照らしてくれる光ではないかもしれない。しかしだからこそ、四姉妹それぞれに当てられた光は、それを見る私たちそれぞれの肖像を浮かび上がらせる光として返還される。グレタ・ガーウィグと素晴らしいキャストたちが描く『若草物語』は、「わたしやあなた」を素描する光として記憶されるのだ。
■宮代大嗣(maplecat-eve)
映画批評。ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、キネマ旬報、松本俊夫特集パンフレットに論評を寄稿。Twitter/ブログ
■公開情報
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
全国公開中
監督・脚本:グレタ・ガーウィグ
原作:ルイザ・メイ・オルコット
出演:シアーシャ・ローナン、ティモシー・シャラメ、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレン、エマ・ワトソン、ローラ・ダーン、メリル・ストリープ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:storyofmylife.jp
公式Twitter:https://twitter.com/SPEeiga
公式Facebook:https://facebook.com/SPEeiga
『ミッドサマー』
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中
脚本・監督:アリ・アスター
出演:フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィル・ポールター、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、ウィルヘルム・ブロングレン、アーチー・マデクウィ、エローラ・トルキア
製作:パトリック・アンディション、ラース・クヌードセン
撮影監督:パヴェウ・ポゴジェルスキ
プロダクション・デザイン:ヘンリック・スヴェンソン
編集:ルシアン・ジョンストン
衣裳デザイン:アンドレア・フレッシュ
音楽:ボビー・クルリック
配給:ファントム・フィルム
2019年/アメリカ映画/ビスタサイズ/147分/原題:Midsommar/R15
(c)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.phantom-film.com/midsommar/