“アニメーションの祭典”アヌシー映画祭 初オンライン開催となる今年の見どころを紹介

オンラインで映画祭の祝祭空間を再現可能か

 今年のアヌシー国際アニメーション映画祭は史上初のオンライン開催となった。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、多くの映画祭がオンライン開催、または中止を発表しているが、はたしてオンラインでの映画祭開催は新たな潮流を生むだろうか。

 そもそも、映画祭とは世界の映画産業において、どのような役割を果たしてきたのだろうか。世界には大小様々な映画祭があるが、アヌシーやカンヌのような巨大な映画祭は、芸術性の評価以外にビジネスサイドのマッチングの場としての機能も重要視される。アヌシーの見本市MIFAは世界で最も大きいアニメーションビジネスの場でもあり、毎年ここで多くの作品の売買が行われ、新たな企画にスポットが当てられる。この見本市もオンラインでの開催となるが、リアルな場と同様に機能するのかどうかは、正直誰もがやってみないとわからないだろう。

 映画作品の売買は、必ずしも対面でのやり取りを必要とするわけではなく、映画祭以外でも日々活発に行われている。しかし、映画祭には有力な作品、買い手と売り手、そしてメディアが一堂に会するからこそ、見本市としての機能が効果を生む。そこに特別な出会いと情報があるからこそ、多くの人が利用するのであって、オンラインで同様の出会いを創出できるかがポイントだ。

 そして、そうした場ではオフレコの情報や、非公開の情報も交わされる。まだ世に出ていない作品の売買をする時は厳格な情報管理が必須だが、オンラインで情報の秘匿をきちんとできるのかも課題となるだろう。

 製作会社や配給会社は自社の作品を売り込むために、脚本やパイロット版などを持ち込むわけだが、買付交渉の希望者にはホテルに来てもらって、その場でのみ脚本や映像を観てもらうというやり方をしたりもする。オンラインで同様のやり方ができるとは思えない。

 そして、一般参加者にとっての映画祭は、特別な祝祭空間である。その映画祭でしか味わえない特別な鑑賞体験、高揚感をオンラインで味わうことができるかどうかは不透明だ。映画祭は文字通り映画の祭りで、映画人にとってのハレとケの「ハレ(非日常)」の舞台だ。対して、オンラインと多くの人にとって日常空間であり、現代人にとって代表的な「ケ(日常)」の空間だ。アヌシーに限らず全ての映画祭に言えることだが、ハレ空間をいかにオンラインに創出できるのかがオンライン映画祭の成否を決めることになるだろう。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■開催情報
『アヌシー国際アニメーション映画祭2020』
6月15日(月)〜6月30日(火)、オンライン開催
公式サイト:http://www.annecy.org/home

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