『エール』は“契約”が物語の大きなテーマに? 裕一と音の二人三脚の歩みを振り返って

 NHK連続テレビ小説『エール』は放送開始から2カ月が過ぎ、6月5日で50回を迎えた。昭和を代表する著名な作曲家・古関裕而をモデルにした小山裕一(窪田正孝)と妻・音(二階堂ふみ)の物語は、裕一がようやくヒット曲「船頭可愛いや」を出し、作曲家として世間に認められるようになったところ。音との間に子供(女の子)も生まれて幸せいっぱい。でもここまで来るには紆余曲折あった。ちょっとその苦労を振り返ってみよう。

 故郷・福島から駆け落ち同然で東京に出て来てコロンブスレコードと契約した裕一は、2年もの間、ヒット曲に恵まれず、契約を打ち切られそうになる。そもそも、かなり高額だった最初の契約金も、印税の前借りであり、レコードが売れたら借りが相殺されるという契約だったから、ディレクターの廿日市(古田新太)は最初に1年でヒットが出なかったので、契約を半額にすると言い出したこともあった。でも、音が交渉して、2年目も同額で契約更新。モデルの古関裕而の場合は、やっぱり最初のうちヒットを出せず、2年目は減額され、5年目にようやく「船頭可愛いや」がヒットして事なきを得たそうで、その点では裕一のほうが恵まれている。

 古山夫婦ののんきなところは、裕一は契約したとき印税の前借りであることを理解しておらず、そもそも最初に契約をとりつけてきた音すら、ほんとうに返さないといけないのか?と半信半疑なところ。仕事で成果を出して会社にお金を返さないといけないことに気づかず、若い夫婦にふさわしからぬ、やたらと広く高給そうな一軒家を借りてしまう計画性のなさ。

 契約書とはたいてい無駄に長く難解なものとはいえ、お金のことはしっかりしないといけない。音のみならず、彼女の姉・吟(松井玲奈)も契約書を読んでいたが、彼女も危険視していなかった。吟が契約書をしげしげ見ていたのは、『エール』をずっと視てきた視聴者ならわかるだろう。幼少時、関内家が、契約書で救われたからだ。

 第2週、音の父・安隆(光石研)が急死して、馬具工場と陸軍の契約の間に入っていた打越金助(平田満)に契約を見直す条件として、母・光子(薬師丸ひろ子)が言い寄られるということがあった。そのとき、音たちが契約書を見つけてしっかり読むと、見直しどころかすでに契約更新されたばかりだったことがわかり、難を逃れたのである。父親がしっかりした人であったことと、残された家族が力をあわせて父の残した契約書を見つけたことで、その後も関内家は女性だけの家族ながら何不自由なく生きることができたのだ。

 その経験があったからか、関内家はその後も、契約書に敏感になったのだろう。裕一が豊橋にやって来たとき、突如、現れた興行師・鶴亀寅吉(古舘伊知郎)の提案で演奏会を行う(第5週)ときもしっかり契約書を読んで、怪しいところがないと確認していた。ところが、契約書にはからくりがなかったが、寅吉は演奏会の売上を持ち逃げしてしまうというオチがあった。

 関内家は契約書によって救われているが、古山家は契約書で失敗している。裕一の父・三郎(唐沢寿明)はあやしげな京都の商人と契約を結ぶが、逃げられてしまい、多額の借金を背負ってしまったことがある。それを肩代わりしてもらうため、裕一は母・まさ(菊池桃子)の実家に養子にいかなくてはならなくなった。このことが裕一をどれだけ苦しめたことであろうか。最初は耐えていた裕一だったが、家を守るために子供の音楽の夢をないがしろにする家族に嫌気がさして、音楽家としての可能性を認めてくれる音と共に東京に出てきたのである。

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