伝記映画やドキュメンタリー製作、さらには出演まで 音楽スターにまつわる映画ブーム到来!?

 ここ5年、音楽スターにまつわる映画が猛烈な勢いを見せている。『ボヘミアン・ラプソディ』などの伝記ジャンルはもちろん、それぞれビートルズとブルース・スプリングスティーンの楽曲を扱う『イエスタデイ』、『カセットテープ・ダイアリーズ』といった音楽主導映画も続いているし、ストリーミングでは音楽ドキュメンタリーが大流行。ミュージシャンの役者業チャレンジならば、レディー・ガガの『アリー/ スター誕生』につづいてカミラ・カベロ主演『シンデレラ』やブルーノ・マーズのディズニー映画が待ち受けている。映画界と音楽界の蜜月、その業界事情を探ってみよう。

『ボヘミアン・ラプソディ』(c)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

 特に大盛況のジャンルが、大御所ミュージシャンに関する伝記映画だ。N.W.Aの軌跡を描く2015年作『ストレイト・アウタ・コンプトン』、クイーンのメンバーを製作に据えた2018年作『ボヘミアン・ラプソディ』の2つが歴史的ヒットを記録して以降、数え切れないほどの企画が立ち上がっている。2020年には『ロケットマン』(歌曲賞)に『ジュディ 虹の彼方に』(主演女優賞)がアカデミー賞の栄光に届いたし、今後としては、アレサ・フランクリンにマイケル・ジャクソン、デヴィッド・ボウイ、セリーヌ・ディオンなど、そうそうたる企画が世界各国で目白押しだ。

 元々、音楽伝記映画はハリウッドのドル箱だった。1980年代には『歌え!ロレッタ愛のために』、2000年代には『Ray/レイ』が大ヒットを記録している。難点としては、数多の企業群や関係者と交渉して、楽曲や表現の権利をたくさん取得していかなければならないこと。企画実現のハードルが非常に高かったのだ。しかしながら、2010年代にはアーティスト含めた音楽産業サイドの姿勢が大きく変わり、率先的に権利交渉を進めてくれるようになったと報じられている。主要因はマネーだ。BBCなどの取材によると、Spotifyなどの音楽ストリーミングサービスが普及したため、関連映画リリースが楽曲消費につながりやすい環境が整った。クラシックなアクトの関係者からすれば若年リスナーにも門戸が開けるところも魅力だろう。『ボヘミアン・ラプソディ』公開から半年でクイーンのSpotifyストリームは3倍以上に跳ね上がり、そのうち7割が30歳未満のリスナーだったという。ピュアセールスはさらに好調だったため、同バンドのカタログ利益は440万ドルから1800万ドル近くに増大したとBillboardが推定している。

『アリー/ スター誕生』(c)2018 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

 劇場映画産業からしても、音楽映画の重要度は増加した。Netflixなどのビデオストリーミング媒体が勢力を増してコンテンツ量が増えた今、消費者にお金を払って劇場に来てもらうには「シアターならではの体験」が武器となる。ここでポピュラー音楽の力が発揮されるのだ。『ボヘミアン・ラプソディ』と『アリー/ スター誕生』が成し遂げた、そこに参加していると錯覚させるほどのコンサート・シークエンスは劇場設備あっての没入体験だろう。そして、音楽スターが持つ「IP(知的財産権)」パワーがある。スーパースター関連作なら、一般的なオリジナル映画よりも興味を抱く消費者が多くなるわけだ。Spotify幹部シュリーナ・オングいわく「(幅広い年代を惹きつける)ノスタルジー喚起には音楽が最も効果的」という側面もあるようなので、『ワンダーウーマン 1984』やディズニー&ピクサー『2分の1の魔法』など、過去のヒット曲を活用した予告編がつづく状況も不思議ではない。

Hustlers | Official Trailer 2 | Own it Now on Digital HD, Blu-Ray & DVD
マーク・ウォールバーグ主演『スペンサー・コンフィデンシャル』予告編 - Netflix

 音楽スターの「IP」、言い換えればブランドパワーは、音楽テーマ以外の作品、さらにはゲスト出演にまで及ぶ。たとえば、2019年アメリカにおいて中規模オリジナルながら『ロケットマン』をもしのぐ興行成績を記録した犯罪映画『ハスラーズ』。同作のチームは、ジェニファー・ロペスらメインキャストのほかにカーディ・Bやリゾといった音楽スターをゲストに招致することで「映画好きの女性なら誰か一人は好きなキャストがいる状態」を完成させた。この作品にしても、マーク・ウォールバーグ主演のNetflix映画『スペンサー・コンフィデンシャル』にしても、ゲスト出演した若手ミュージシャン、カーディ・Bとポスト・マローンの存在が予告編の最初に映されている。

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