『野ブタ。をプロデュース』が15年後も色褪せない理由 「青春アミーゴ」とリンクする青春の痛み

 そんな悩みを全力で演じるメインキャストの亀梨和也、山下智久、堀北真希、戸田恵梨香(修二の彼女・まり子役)といまをときめく人気者の若き姿がまぶしい。山下演じる彰だけ、原作小説にはないドラマのオリジナルキャラ。修二と対照的なマイペースさで、人に何を思われようと気にしない彰さえ、第6話で、次第に学内で受け入れられていく信子に対する想いが募ってきて、「野ブタ(信子のあだ名)がみんなのものになるのはいや」「俺だけのものにしたい」と言い出す。それによって修二は自分の心と向き合っていく。修二と彰のコンビのバランスがよくできている。

 亀梨と山下は現在、ジャニーズ事務所の中堅として頼もしい存在感を示しているが、15年前は初夏、ぐんぐん伸び盛る新芽のようだった。修二と彰がおのおのビルの屋上にいる場面は、ある種の野心や自信をもちながら世界を上から客観的に眺めているような怖いもの知らずの若さを感じる。だが新芽のエネルギーは強いものの物体としては柔らかくてちょっと弱いところもある。若さの両義性の絡み合いは骨の成長のように痛みを伴う。やんちゃだけど脆い若さそのもののような亀梨と山下を、ロケ撮影多めで、当時の街の様子を残しつつ撮影し、街と俳優たちの少年期のいい記録にもなっている。第1話の冒頭、平行して走っている2本の電車が交錯する瞬間もエモい。2本の電車は修二と彰を表しているのか。はたまた修二と信子なのか。

 人気絶頂のころ、結婚して引退してしまった堀北と、着実に大人の俳優として成長を見せる戸田恵梨香のぷくっとした頬の愛らしさは眼福。イジワルな女子生徒たちが描かれるなかで、彼女たちはひたすら純粋に善意の象徴として描かれている。信子のことが好きな男子(若葉竜也)と信子、修二とまり子がダブルデートして、それを彰が尾行する第5話が4人の個性がめいっぱい出ていて面白い。

 未熟な部分も込みでその日その日を必死で生きている10代のひな鳥のような柔らかな心を追ったドラマのなかで、謎の書店の店長役の忌野清志郎や、話のわかる教頭先生役の夏木マリなど、素敵な大人たちがちょっと変人に描かれているところも魅力。周囲の目をいかに気にせず己の思ったとおりに生きていくことができるか。当たり前のようになっている社会の仕組みはほんとうに正しいのか。いま、芸能人もSNSを通して政治にも意見を表明する人が増えてきたけれど、清志郎はずっと、歌を通して問いかけていた。清志郎を知らない人も楽しめるドラマではあるが、知っている人にはやっぱり切なくなるドラマである。

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■放送情報
『野ブタ。をプロデュース』特別編
日本テレビ系にて放送
第7話:5月23日(土)22:00〜22:54
第8話:6月6日(土)22:00〜22:54
第9話:6月13日(土)22:00〜22:54
第10話:6月20日(土)22:00〜22:54
出演:亀梨和也、山下智久、堀北真希、戸田恵梨香ほか
脚本 : 木皿泉
原作 : 『野ブタ。をプロデュース』白岩玄(河出書房新社)
音楽 : 池頼広
チーフプロデューサー : 池田健司
プロデューサー : 河野英裕、能勢荘志
演出 : 岩本仁志、北川敬一、佐久間紀佳
制作協力 : トータルメディアコミュニケーション
制作著作 : 日本テレビ
(c)日本テレビ

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