『エール』が描いた応援歌とスポーツの幸福な関係 すべての球児が再び舞台に立てる日を祈って

『エール』が描いた応援歌の意味

 裕一(窪田正孝)が作曲家として成長するために、乗り越えるべき試練が訪れたNHK連続テレビ小説『エール』(NHK総合)の第8週「紺碧の空」。裕一は自分の曲が採用されないにもかかわらず、所属する赤レーベルの流行歌を心のどこかで見下し、どこまでも西洋音楽にこだわっていた。自分に応援歌の作曲を依頼してくれた早稲田大学応援部の団員たちにも、「早稲田が負けるのは、ただ弱いからですよ」と応援歌そのものの存在を揺るがすような発言をする始末。そんな彼の心を変えたのは、応援部の団長である、田中隆(三浦貴大)の応援に対する情熱だった。

 早慶戦の当日の朝、ついに曲が完成。応援部は、裕一の曲を応援に使うことを妨害しようとしている事務局長(徳井優)を部室に監禁するという強引な方法に出る。裕一と音(二階堂ふみ)も固唾を飲んで試合を見守る中、早慶戦は一勝一敗で三戦目に。激戦の結果、日本中から注目された昭和6年の東京六大学野球は早稲田の優勝で幕を閉じた。

 試合後、新婚当初のイチャつきを取り戻した裕一と音。そこに応援団員たちが駆けつけ、「まったく曲が採用されん先生に、エールば送ります」と裕一に向かってエールを送った。試合会場にいる人たちはもちろん、ラジオを通して全国に流れた「紺碧の空」。田中がかつて、怪我をさせてしまった清水誠二(田邊和也)も諦めざるを得なかった野球のボールを取り出し、青春の日々を思い出していた。

 なぜ、あれだけ書けなかった曲をたった一日で完成させることができたのか。裕一は後日、心配してくれていた同期の木枯(野田洋次郎)との会話の中で、「僕は自分の力を示すことに固執していた。そんな独りよがりの曲が伝わるわけない」と振り返った。裕一にとって必要だったのは、音楽のジャンルにこだわることでも、技術を磨くことでもない。自分の音楽を届けたい相手の顔を思い浮かべることだった。それはかつて、幼い頃の裕一がハーモニカひとつで鉄男(中村蒼)に初めてのエールを送ったように。

 目を閉じて何かをひらめいた裕一は、福島にいる鉄男を呼び出した。裕一は鉄男に、「僕と曲を作らないか」と提案。作曲家の裕一と作詞が得意な鉄男、そしてそこにプロ並みの歌唱力を持つ久志(山崎育三郎)が合流し、幼なじみトリオが集合した。この三人はのちに、福島三羽ガラスと呼ばれるようになるのだが、果たして裕一の思惑はうまくいくのだろうか。

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