『エール』が描いた応援歌とスポーツの幸福な関係 すべての球児が再び舞台に立てる日を祈って

『エール』が描いた応援歌の意味

 一方、音はライバルの千鶴子(小南満佑子)と対峙。裕一が作曲した「紺碧の空」は音の心をも動かし、音楽は技量だけじゃなく、心から生まれるものだと気づかせた。そして、「ヴィオレッタ役、本気で勝ち取りにいきます」と宣言した音。第9週「東京恋物語」では、歌手への第一歩となる「鷹ノ塚記念公演」出演を目指す音に、試練が訪れる。恋心を歌で表現するために、男女の社交場であるカフェーで働き出した音。心配した裕一から頼まれ、音の様子を見に行った鉄男は、そこで店員の希穂子(入山法子)に出会う。鉄男の儚く切ない恋に注目だ。

 最後に、裕一が作曲した「紺碧の空」にもう一度触れておこう。この楽曲が早稲田大学の応援歌に採用される前の昭和2~5年当時、東京六大学野球は慶應義塾大学が連続で優勝していた。球児たちを支えていたのが、応援歌「若き血」だったという。早稲田はこれに対抗するため、学内で歌詞を募集。学生だった住治男の歌詞が採用され、裕一のモデルになった古関裕而に作曲を依頼することに。そうして出来上がった「紺碧の空」は、早稲田大学を勝利へ導いた。「紺碧の空」は第一応援歌となり、現在まで歌い継がれている。

 本来ならば性質が異なり、相容れないようにも思えるスポーツと音楽。しかし、昭和の時代から両者の関係性は確立され、今やスポーツの応援には音楽は欠かせない存在だ。ただ、今年は新型コロナウイルスの影響で、どちらも窮地に立たされている。音楽ライブは続々と延期や中止が決まり、東京オリンピックをはじめとしたスポーツイベントは延期。今週は、夏の甲子園大会も戦後以来初の中止が発表された。力を発揮する場所を失った高校球児たちの悲しみは計り知れない。どうか彼らに今こそエールを。ふたたび、誰もが夢を諦めることなく、それぞれの舞台に立てる日を祈って。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜9月26日(土)
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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