ジャ・ジャンクー監督ら、“外出自粛”で短編発表 限られた環境下で生まれる創意工夫を追う

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、世界規模で映画界はこれまで経験したことがないほどの大打撃を受けている。映画館の閉鎖に、相次ぐ公開延期や製作延期。さらには劇場公開を諦めて配信公開に踏み切った作品も少なくない。仮に近日中に事態が落ち着いて映画館が再開したとしても、しばらくはこの後遺症を背負っていくことは間違いないだろう。いずれにしても、かつてのように映画は映画館でしか観られないものではなくなったという時代の変化、プラットフォームの変化はとても大きな意味を持っていたのだと改めて理解する機会となった。

 「映画は人に観てもらって初めて完成する」。この大原則とも言える言葉を示すように、そして“現在”にしかできない表現を求めるように、世界中で影響力のある映画監督たちが自宅などの制限された環境で小規模で制作した短編映画を相次いでオンライン上に発信しているのだ。その状況は、与えられたシチュエーションこそ違えど、数年前に政治的な事柄で映画製作を禁じられたイランのジャファール・パナヒ監督が自宅軟禁の中でこっそりと制作した『これは映画ではない』を思い出してしまう。もはやこの映画も、もう“映画ではない”という理屈がどんな手を使っても通用しなくなるような時代に突入したのかもしれない。

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 実際にすでに公開されている作品をいくつか紹介しよう。まずは中国第六世代を牽引するジャ・ジャンクー監督の『訪問』。スマートフォンを使って、おそらくジャンクーの事務所と思しき場所で撮影された本作では、訪ねてきた男に検温をし、握手を拒み、お茶ではなく除菌ジェルが運ばれてくるという今日的な応接の方法が積み重ねられていく。このご時世の中でも、まだいささかシュールに映るわけだが、これが単にシュールとなるのか当然のものとなるのかまだ何とも言い難いのがつらいところだ。とはいえ目を見張るのは、終盤に2人の男がマスクを外してお茶を飲むカットの哀愁ただよう雰囲気。映画にはこれまでも何かを物語るための定番の所作というのがいくつも存在してきたが、その中に今後は「マスクを外す」という所作が新たに加わることになるのだろう。

 ジャンクー監督がこの作品を発表したのは、ギリシャのテッサロニキ国際映画祭が企画した、自宅待機をテーマにしたショートムービーのプロジェクト「Spaces」の一環だそうだ。ギリシャから8人、他の国や地域から14人の監督がそれぞれロックダウンされた環境で3分間ほどの短編を制作。第1弾ではギリシャの監督たちが、第2弾ではジャンクーのほか『ラッキー』で監督デビューを飾った俳優のジョン・キャロル・リンチら4名の作品が公開され、今後ドゥニ・コテやアルベルト・セラらの作品が順次公開されていくとのことだ。

 また、『エターナル・サンシャイン』や『恋愛睡眠のすすめ』など、実写からアニメーションまで様々な表現方法で独特な世界観を生み出してきたミシェル・ゴンドリー監督は、『Une Petit Visite a mon college(原題)』というタイトルのストップモーションアニメをVimeoで発表。切り絵を用いて、ゴンドリー自身を模したキャラクターがロサンゼルスからはるばる大西洋を渡り、フランスの田舎街にある中学校にたどり着くまでの波乱に満ちた道中がテンポよく描かれていく。ゴンドリーは過去にもiPhone7で撮影したショートムービーを発表するなど時代の流れに即座に対応できる作家であることは言うまでもない。考えてみれば、アニメーションであればそれぞれのクリエイターが個別に作業していくことが可能なだけに、環境さえ整っていればリモート作業でひとつの作品を完成させることはできなくはないのだろう。

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