『ドクター・スリープ』はサイキック・アクションの良作!  カタルシス溢れる決着を観よ

 結論から書くと、『ドクター・スリープ』(2019年)はサイキック・アクションの良作だ。そして『シャイニング』の40年越し(!)の続編として理想的な形でもある。監督・脚本を務めたマイク・フラナガンは、その卓越した手腕で過去作のファンに最大限の愛を払いながら、初めて観る人でも楽しめるように作品を仕上げた。

 前作『シャイニング』(1980年)にて悪霊が宿ったホテルと、イカレたジャック・ニコルソンことジャック・トランスの魔手から、辛くも逃げ切った少年ダニー・トランス。しかし、あのホテルの悪霊たちはダニーへのストーキング行為を続けていた。怯えて生きるダニー少年だったが、ある日、彼の前に死んだはずの“超能力”=“シャイニング”の使い手ハロラン(クリフ・カーティス)の霊が現れる。そしてハロランはダニーに、シャイニング能力者として悪霊との戦い方を教えるのだった。かくして悪霊を封印する術を身に付けたダニー少年だったが、いろいろあった末に酒に溺れる不良中年になってしまう。ダニー(ユアン・マクレガー)は何とか自分を変えたいと思い、アルコール中毒の克服に挑む。一方その頃、シャイニングの力を吸う不死の軍団“トゥルー・ノット”が、強いシャイニング能力を持つ少女アブラ(カイリー・カラン)を殺そうと計画する。自分がトゥルー・ノットの標的になったと気づいたアブラは、シャイニング能力で心が通じ合ったダニーに助けを求めるのだった。

『ドクター・スリープ』Doctor Sleep (c)2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

 そもそも前作『シャイニング』は、非常に複雑な背景を持つ映画である。冬のホテルで仕事をしていたジャック・ニコルソンが、いよいよ気が狂って妻と子供を殺そうとする。斧でドアをブチ破り、裂け目からガンギマリの顔で「お客さんだよ!(おコンバンハ!)」それが『シャイニング』である……と、こう書いてしまってあまり問題ないが、問題ないのが大問題なのだ。なぜなら“現代ホラー小説界の帝王”ことスティーヴン・キングが書いた原作は、映画と大きく異なるのだから。

 「気の狂ったお父さんが襲って来る」という結果は同じだが、そこに至るまでの過程が映画と原作では大きく違う。原作はホテルに宿る悪霊がお父さんを狂わせるのだが、映画版は、悪霊よりも仕事や日常生活のプレッシャーでブッ壊れたように見えるし、なんならホテルに着く前から狂っているようにも見える。もちろん有名な大流血エレベーターや全裸おばあちゃん、青いドレスの双子の幽霊など、ファンタジックな要素はあるが、いかんせんニコルソンのクレイジー演技の印象が強すぎるうえ、結末も原作と異なるので、ほとんど別物といってよい仕上がりになったのだ。

『シャイニング』(c) 1980 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 当然キングはこの改変を非難したが、ここでもう一つ問題が起きる。原作者のキングがボコボコにいった映画版が、熱狂的に受け入れられたのだ。それこそジャック・ニコルソンが斧で扉をブチ破るシーンが現在まで語り継がれているのが証拠だろう。何せ手がけたのはスタンリー・キューブリックである。こちらはこちらで映画史に残る偉人だ。2人の巨匠が作り上げた『シャイニング』はポップカルチャーの礎の1つとなった。ただし悲劇的だったのは、キングとキューブリックでは趣味が決定的に違ったこと、そして仲たがいをしたことだ。

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