TBS「火曜ドラマ」は“社会の変化”を女性視点で描く 転機となった3作品を振り返る

 新型コロナウイルスの影響で社会が大きく揺れる中、春ドラマもスタート日の調整を余儀なくされている。多部未華子主演の火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)も、その1つ。本作の主人公・相原メイは製薬会社でバリバリと働く28歳の独身女性。仕事はできるのに、部屋は散らかり放題。そんなメイのところに、スーパー家政夫のナギサさん(大森南朋)が現れて……という内容だ。

 2014年4月からスタートしたTBSの火曜ドラマ枠。2作目以降、女性を主人公の作品が続いているのが大きな特徴。この5年間で急速に変化してきた社会の様子を、女性視点で定点観察できるドラマ枠ともいえそうだ。そこで今回は、女性たちを取り巻く恋愛と仕事観の転機が見えた、3作品を振り返ってみたい。『私の家政夫ナギサさん』のオンエアを待ちわびながら、動画配信サービス「Paravi」などで楽しむきっかけになれば幸いだ。

自分を縛る「呪い」に気づかせてくれた『逃げるは恥だが役に立つ』

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 2016年10月期にオンエアされた『逃げるは恥だが役に立つ』(以下、『逃げ恥』)は、火曜ドラマの最高視聴率を誇る作品。海野つなみの原作漫画を、『重版出来!』『アンナチュラル』の脚本家・野木亜紀子、主演・新垣結衣でドラマ化。星野源が歌った主題歌「恋」にのせて踊る“恋ダンス“は社会現象化するほどの人気を博したことでも記憶に新しい。恋愛や結婚へのハードルが高まる現代において、就職するような形で契約結婚をしてみるという柔軟な発想で物語がスタートする。そして、生活を共にするうちに徐々に本当の恋が芽生えていくムズキュンストーリーが、多くの視聴者を夢中にさせた。一方で、高学歴の派遣社員、高齢処女のキャリアウーマン、シングルマザーの自立……など、愛すべきキャラクターたちを通じて様々な立場におかれた女性たちの生き様が描かれたのも見どころのひとつ。なかでも専業主婦の頑張りを「やりがい搾取では?」と問題提起し、若くなければ価値がないという思い込みを一喝する展開は、私たちが知らずしらずのうちに凝り固まっていた「こうでなければ」という「呪い」に気づかせてくれるものだった。『逃げ恥』から少し未来にいる私たちは、果たして多くの「呪い」から逃げることはできているだろうかと自問自答してみるのもオススメ。もちろん、何度観てもグッとくる、小賢しい主人公・みくりとプロの独身・平匡の不器用な恋模様も楽しみながら。

血のつながりだけではない家族の絆を見せた『義母と娘のブルース』

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 2018年7月期に放送された『義母と娘のブルース』(以下、『ぎぼむす』)は、桜沢鈴の同名漫画が原作。『JIN-仁-』、『天皇の料理番』(共にTBS系)、『おんな城主 直虎』(NHK総合)の森下佳子が脚本を担当し、綾瀬はるかが主演を務めた。『ぎぼむす』も、また恋愛よりも先に結婚から始まるストーリー。竹野内豊演じる、シングルファザーの良一がスキルス性胃がんを患ったことを機に、娘のみゆきを託す相手として亜希子(綾瀬はるか)に求婚。亜希子は若くして部長職を務めるほど有能な会社員だったが、良一との結婚を機に退職して専業主婦となる。それまで仕事一筋だったがゆえに、家庭的なスキルはほとんどなく、幼いみゆきとのコミュニケーションにビジネス用語を用いるなどのズレっぷりで大いに引かせてしまう場面も。だが、世間一般的に言われる“普通のお母さん”とは異なるものの、亜希子とみゆきはぶつかりながら親子愛を育んでいく。むしろ義母と娘という血のつながらない他人だからこそ、対等の立場で親子になろうと努力するさまは、「家族とは何か」を改めて考えさせられるものだった。結婚をすれば、子ができれば、書類上は家族と呼べる集合体になる。だが、本当に家族の絆と呼べる関係性を築くには、個人と個人の尊重と歩み寄りが必要だということ。逆を言えば、それができる人となら、たとえ血がつながらなかったとしても本当の家族になれる。多様性が叫ばれる昨今、これまでの“普通”の形にとらわれない幸せな家族が増えるのではないか、そんな希望を抱かせてくれる作品だ。

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