シシド・カフカに見る、主演女優の輝き 『ハムラアキラ』で新しい女探偵の誕生
だけど、葉村晶は「冷血」というわけではない。シシド・カフカは葉村晶のことを「クールに見せておきながら、ものすごくおせっかいな人」と表現している。つっけんどんな態度でいるが、困っている依頼人がいたら放ってはおけない。
世の中で女性が求められがちな「しなやかさ」とは無縁の存在で、トラブルに巻き込まれるたびに頭から血を流したり、あちこちケガをしたりしている。書店オーナーの富山泰之(中村梅雀)曰く「トラブルメイカー・マグネット」。
彼女が探偵の仕事でかかわる人たちは、己の不幸を呪って他人に生まれ変わろうとする実の姉・珠洲(MEGUMI)や、心を寄せていた同性の親友に拒絶された学者・環(松本まりか)、人々の悪意に向き合いすぎてこの世に絶望した“濃紺の男”(野間口徹)など、心に深い闇を抱えている人が多い。依頼に全力で応えようとして、また体や心にケガを負う。無表情を装っているけど、内面はものすごく揺れている。その繰り返しだ。けっして器用な生き様ではないが、それこそハードボイルドだと思う。
シシド・カフカの女優としての面が多くの人に知られたのは、NHKの朝ドラ『ひよっこ』で主人公と同じアパートに住むOL・久坂早苗役だろう。気性が激しく、毒舌家で、いつも何かに苛立っている。だけど、実は人情家で、主人公を励ましつつ、渡米した想い人をずっと待っている……という役柄だった。ドラマデビュー作の『ファーストクラス』(フジテレビ系)はディフォルメされた「強い女」の役だったが、『ひよっこ』の早苗役については「単に『強い』のではなくて、『強がっている』のだと思います。そういう不器用な感じを表せたらと思って」と分析していた(ザテレビジョン 2017年8月12日)。
『わたし、定時で帰ります』(TBS系)で演じていた無遅刻無欠勤の社員・三谷も、不器用な真面目さが視聴者の胸に迫るような役柄だった。以前所属していた会社でパワハラを受け、解雇を恐れて人の倍ほど働くようになり、新入社員に厳しく接して反発される。傷つき続けてハードボイルドになったのに、また傷ついてしまう。どこか葉村晶と共通する部分もあるように感じる。
クールに見えるけど本当は熱くて、不器用なほど真面目で、何度も傷つくけど、そのたびにしたたかに立ち上がる。そんな役を演じるとき、シシド・カフカの魅力が発揮されるようだ。今は『ハムラアキラ』のシリーズ化を強く願っている。
■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter。
■放送情報
NHKドラマ10『ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~』
NHK総合にて、毎週金曜22:00〜22:49放送(連続7回)
出演:シシド・カフカ、間宮祥太朗、池田成志、津田寛治、板橋駿谷、松尾貴史、中村靖日、大後寿々花、浦上晟周、中村梅雀ほか
原作:若竹七海
脚本:黒沢久子、木田紀生
音楽:菊地成孔
制作統括:三鬼一希
演出:大橋守、増田靜雄、中村周祐
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama/drama10/hamuraakira/