人は抑圧にどう立ち向かうのか? 『ロニートとエスティ』ラストシーンが象徴する現代的なテーマ

『ロニートとエスティ』ラストに宿る感傷

 しかしながら、本作において重大な選択を行うのは女性だけではない。ロニートとエスティが愛し合っているのを痛いほどに理解しており、また、ふたりの友人であるドヴィッドの葛藤もまた、この映画の山場となっている。彼は厳格な宗教コミュニティーー父権社会ーーにおける最良の「息子」であり、そこでの慣習という名の掟に従順に生きている。だが、妻と幼なじみが受ける抑圧を目の当たりにし、次第に自分が女性の自由のために何ができるのか考えることになるのである……それは、「父」に逆らうことだと知りながら。つまり本作では、女性が自由を選択するためには、男性も変わらねばならないことがはっきりと示されている。

 掟に従わなかった自分を捨てた「父」にロニートが決別を果たすラストシーンには、苦さと清々しさの両方が漂っている。その複雑な感傷は、長く世界を支配してきた男権社会に対する別れに際して去来するものではないか。それは社会の様々な層で顕在化している非常に現代的な命題であり、レリオにとっても重大な主題にちがいない。 

 三人の決断は様々だ。あくまで父権から逃れる者、そこに留まりながらどうにか自由意思を探ろうとする者、それを内側から変容させようとする者。しかしながら、父権に対して『不服従(disobedience)』(本作の原題)であることこそが三人の共通の想いとなり、そのことで彼女たちは再び心を通わせることになる。その絆を示す抱擁の温かさ、その熱が、スクリーンからじわりと伝わってくるようだ。 

■木津毅(きづ・つよし)
ライター/編集者。1984年大阪生まれ。2011年ele-kingにてデビュー。以来、各メディアにて映画、音楽、ゲイ・カルチャーを中心にジャンルをまたいで執筆。編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』。

■公開情報
『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』
2月7日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
監督:セバスティアン・レリオ
出演:レイチェル・ワイズ、レイチェル・マクアダムス、アレッサンドロ・ニヴォラ
プロデューサー:フリーダ・トレスブランコ、エド・ギニー、レイチェル・ワイズ
配給:ファントム・フィルム
2017年/イギリス/英語/DCP/カラー/114分/原題:Disobedience/PG12
(c)2018 Channel Four Television Corporation and Candlelight Productions, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:phantom-film.com/ronit-esti

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる