西川貴教がヒロインにもたらす、陽と陰のエネルギー 朝ドラ「変なおじさん」の系譜
『スカーレット』のジョージ富士川もまた、芸術家という職業柄や派手な容姿を含め、秋風タイプなのかと最初は思っていた。ところが、放送が始まってみると、なかなか出てこない。なぜなら、ヒロイン・喜美子(戸田恵梨香)は中学卒業後、大阪の「荒木荘」で女中として働き、陶芸の道へ進むのはまだ先のことだったから。
いよいよ初登場となったのは、第28~29話。サイン会に行った喜美子が美術学校に通おうと思っていることを話すと、「そこ、僕が特別講師を頼まれたところや。ほな、また、お会いできますね。基本を学ぶことは大事なことやで。土台がしっかりして、初めて自由になれる」と語り、運命的な出会いを感じさせた。ところが、喜美子はそのまま信楽に帰ることになり、美術学校を断念。たった2話の登場となる。
再会するのは、第78話。喜美子が既婚で子持ちになってからだ。このときは、信楽での実演会にジョージ富士川が訪れたものの、息子の武志が熱を出したために、喜美子は行けず、夫・八郎(松下洸平)が頼み込んで川原家に来てもらったのだった。即興の創作実演に刺激を受けた八郎は、作陶に没頭。後に金賞を受賞する。また、喜美子もまた、父の死の悲しみを乗り越えて、作品を生もうとするようになる。
さらに久しぶりの再登場は、第93話。東京に行っていた八郎が偶然再会したことで、連れてくるのだが、そこでこんな発言をする。
「いつもな、もうこれで終わりにしよう思うねん。これ作ったら終わり! これが最後! これでしまいやぁ! って。それが……また沸いてくんねん、作品が完成した途端、次の思いがまたカァ~ッと! ここ(胸)が!」
これまでの「朝ドラのヘンなおじさん」たちは、ヒロインにとっての癒しや安らぎであったり、自由気ままな振る舞いで笑いを提供してくれる存在だったり、ムードメーカーだったり、ときには「妖精」的なピュア担当であったりした。しかし、ジョージ富士川の場合は、従来のヘンなおじさんたちに比べ、はるかに出番が少なく、ピンポイントの出演となっている。
とはいえ、ピンポイントの出演にもかかわらず、序盤よりも年齢を重ねたためか、ややスローテンポのしゃべりになっている一方で、派手さはさらに増し、情熱も衰えていない様子が明らかにわかるのは、非常に芸が細かいと感心させられる。
そして、彼が登場するのは、いつも何かしら煮詰まったときやエネルギーを内に溜め込んでいるとき。八郎にとっては、金賞をとる創作意欲のきっかけを与えてくれた一方で、地元の土に執着させ、さらなる再会で、彼の「情熱」に共感する喜美子と自身の違いを再確認させるきっかけになってしまっていないだろうか。
また、喜美子には幾度となく消えそうになる情熱に火をつけ、ときにはそれが自身の火に焼かれそうになる苦しみにもつながっている。
最初は、これまでの定番のヘンなおじさんの一つだと思ったし、決めゼリフ「自由は不自由やでェ~」も朝ドラ発の流行語を狙ったものかと思った。しかし、その存在も決めゼリフも、実は陽と陰、正と負の両方向に引っ張る強いエネルギーを持つものなのだと、ここにきて感じている。
■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、富田靖子、松下洸平、福田麻由子、中村育二、飯田基祐ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記
演出:中島由貴、佐藤譲
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/