木村拓哉の料理シーンが映える理由 『グランメゾン東京』はグルメドラマの限界を押し上げる

 2点目の「味をどのように伝えるか」という課題の解決策は、ここ10年のテレビドラマでもっとも進展が見られた部分かもしれない。「メシテロ」という言葉を定着させ、深夜帯の視聴者を魅了し続ける『孤独のグルメ』シリーズ(テレビ東京系)が新しかったのは、情報が氾濫する時代にあって路地裏や住宅街にある知られざる名店を発掘した点もさることながら、「美味しいものを美味しく撮る」技法をとことん追求した点にある。2012年から始まった同シリーズは、インスタ投稿で体験をシェアする「映え」の感性を先取りするものだった。

 『グランメゾン東京』でも、調理や盛り付けには細心の注意が払われている。新鮮な食材を彩り良く見せるためのライティングや、調理手順をつぶさに観察できるカメラの配置、テロップによる食材紹介には、昨今のレシピ動画の影響を見て取ることができる。作り手の視点から構成された臨場感あふれる映像には、視聴者の没入感を誘う効果もあるだろう。さらに、実際に使われる料理も一流レストランが監修。尾花たちのグランメゾン東京は三ツ星フレンチレストラン「カンテサンス」の岸田周三シェフ、ライバルであるgakuには「INUA」のトーマス・フレベルシェフがレシピを提供するなど、最高級の料理が惜しげもなく投入され「本物感」の演出に貢献している。こうした「食」の体験をトータルで差配するフードコーディネーターの存在も見逃せない。

 3点目はなんといっても日曜劇場であることが大きい。前期クールの『ノーサイド・ゲーム』で元日本代表を含むラグビー経験者をキャスティングし、本番さながらの試合シーンを再現したように、伝統枠でありながらチャレンジングな姿勢を貫いている日曜劇場。食のテーマはすでに『天皇の料理番』で経験済みであり、『グランメゾン東京』は同枠が培った経験値の上に成立した企画と言える。これらに加えてSMAP時代にバラエティ番組で豊富な調理経験を重ねた木村拓哉の包丁さばきや、飲食店等とのタイアップ企画など、敷居の高いフレンチを視聴者が身近に感じられる仕掛けが随所に施されている。

 再起を賭ける料理人の群像劇に「食」のクオリティを持ち込んだ『グランメゾン東京』は、これまでのグルメドラマの限界を押し上げた作品として位置付けられる。動画大手Netflixで『シェフのテーブル』が人気番組となったように、最高級のガストロノミーがコンテンツとして映えるという事実は、あらためて食とエンタメの親和性の高さを示すものだ。『グランメゾン東京』を見て抗えない魅力を感じるのは、その両方を高いレベルで実現する妥協のなさとSNS時代の真理を体現しているからではないだろうか。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログtwitter

■放送情報
日曜劇場『グランメゾン東京』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54
出演:木村拓哉、鈴木京香、玉森裕太(Kis-My-Ft2)、尾上菊之助、及川光博、 沢村一樹
脚本:黒岩勉
プロデュース:伊與田英徳、東仲恵吾
演出:塚原あゆ子ほか
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/grandmaisontokyo/

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