森七菜、なぜ2019年最大のブレイク女優に? 小学生から結婚する女性まで演じた大躍進を振り返る

 さらに面白いことに、『天気の子』と同日に『東京喰種トーキョーグール【S】』も公開され、声の演技だけでなく、スクリーン上でひときわ目立つアクトを繰り広げる実写での演技も同じタイミングで確認することができたのである。そして秋になると次々と出演作が世に放出されていく。ある家族の通夜の夜を描いた『最初の晩餐』では、戸田恵梨香が演じた長女の少女時代を演じ、彼女はひとりで小学生から高校生の時系列を演じ抜く。撮影が1年ほど前と見積もっても、17歳の女優が、いくらかあどけなさが残るルックスを持っているといえども、何の違和感もなく小学生を演じるというのは決して容易なことではないだろう。かと思えば同作の公開週に放送されてNHKのドラマ『少年寅次郎』では中学生になった寅次郎が恋に落ちる東北出身の純朴な少女を演じ、その後に公開された『地獄少女』では親友を奪おうとするアーティストに呪いをかける高校生役。もちろんそれぞれの作品で撮影のタイミングの順序に差はあるだろうが、短期間の間に彼女は「学校に閉じ込められる高校生」から「年齢をふたつサバを読む中学生」、「小学生」に「出稼ぎの少女」ときて、再び実年齢に近い高校生へと往来したのである。

『最初の晩餐』(c)2019『最初の晩餐』製作委員会

 実はこれらと同じタイミングに、もう1作品出演作がある。『天気の子』のプロデューサーでもある川村元気が脚本を務めたティファニーとゼクシィのコラボによるショートフィルム『TIFFANY BLUE』だ。仲野太賀演じる働き詰めのサラリーマン青年と3年間交際しているカフェ店員の女性という役柄で、彼女は毎日自分の店にコーヒーを買いに来る彼にメッセージ入りのカップを渡す。そしてそんな日常が重ねられていく中で、すれ違いかける2人だったが、閉店後のカフェに訪れた彼が彼女にカウンター越しにプロポーズするというストーリーだ。少なくとも実年齢よりも上の役柄を演じていることは間違いなく、つい先日小学生を演じていたのに今度は結婚する役なのかと、その振れ幅の大きさにはただただ驚かされるばかりだ。10代にして年齢不詳の女優という地位を確立しつつあるというのは実に興味深い。いずれにしても、これだけ幅広い役柄が回ってくるのは、言わずもがな彼女に対する映像業界全体の期待のあらわれに他ならないだろう。

仲野太賀&森七菜主演『TIFFANY BLUE』【Presented by ティファニー×ゼクシィ】

 しかも先日は『3年A組』と同じ世界観を引き継いだ『ニッポンノワール ー刑事Yの反乱ー』(日本テレビ系)に再び堀部瑠奈役としてゲスト出演。年明けすぐに公開される岩井俊二監督の最新作『ラストレター』では、松たか子演じる主人公・裕里の娘・颯香と裕里の高校生時代の二役を演じ、主題歌も担当するときた。同じ役柄を2度演じること、同じ作品で異なるけれど通じている2つの役を演じ分けること。ただ大役が続く以上の、なかなか経験しがたい演技によって、森七菜という女優はさらに磨かれていくに違いない。さらに3月30日から放送されるNHK朝の連続テレビ小説『エール』では二階堂ふみ演じるヒロインの妹役として出演。筆者が密かに期待している朝ドラヒロインの座に、着実に近付いているのかもしれない。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『天気の子』
全国東宝系にて公開中
声の出演:醍醐虎汰朗、森七菜、本田翼、吉柳咲良、平泉成、梶裕貴、倍賞千恵子、小栗旬
原作・脚本・監督:新海誠
音楽:RADWIMPS
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:田村篤
美術監督:滝口比呂志
(c)2019「天気の子」製作委員会
公式サイト:https://www.tenkinoko.com/

『最初の晩餐』
全国公開中
出演:染谷将太、戸田恵梨香、窪塚洋介、斉藤由貴、永瀬正敏、森七菜、楽駆、牧純矢、外川燎、池田成志、菅原大吉、カトウシンスケ、玄理、山本浩司、小野塚勇人、奥野瑛太、諏訪太朗
監督・脚本・編集:常盤司郎
企画・プロデューサー:杉山麻衣
製作:『最初の晩餐』製作委員会
配給:KADOKAWA
(c)2019『最初の晩餐』製作委員会
公式サイト:saishonobansan.com

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