『同期のサクラ』&『ミス・ジコチョー』キーワードは“忖度” 令和のスカッと系ヒロインが伝えるもの

 『ミス・ジコチョー』で真奈子の忖度しない姿勢は、徹底して真実究明に向けられている。真奈子が失敗を愛するのは、そこに成功の種があることを経験的に知っているためだ。必然的に真奈子の思考は未来を向く。第3話で、真奈子は助手の野津田(堀井新太)に自身の代理として事故調査委員会に出席するよう依頼する。他の委員は、野津田が提案した仮説を「君はあくまでアシスタント」と言って取り上げようとしないが、真奈子は「彼に一任した」と全面的に承認。その裏には、野津田に、かつて勤めていた空調機械メーカーでの失敗を自らの手で挽回させようとする意図があった。

『ミス・ジコチョー~天才・天ノ教授の調査ファイル~』写真提供=NHK総合

 事故のほとんどはヒューマンエラーに起因すると言われる。その原因を見過ごしたり、隠ぺいするのは人間だ。忖度しない真奈子の態度の根底には、「機械も人間も失敗をゼロにはできない」という考えがある。「失敗を認めず頭ごなしに非難するのではなく、失敗から回復できる力や環境をつくることが大きな失敗を防ぐ」という言葉には、どうすれば人間同士が共存していけるかという問題意識がある。

 サクラや真奈子が示しているのは、単純な正義や公平感の先にあるものだ。「私、失敗しないので」という大門未知子に対して、真奈子は失敗から得られるものに目を向け、忖度しないサクラは一生ものの友情を手にする。巨悪をぶった切るだけでは本当の問題は解決しないし、いくら組織を変えても自分の周りに目をやれば何ひとつ変わっていないという現実を振り返ったとき、何が本当に大事かという本質的な価値観に目をやっているのだ。令和の「スカッと系ヒロイン」に私たちが共感してしまうのは、そのまっすぐな視線の奥に人間に対する眼差しを見ているからではないだろうか?

※西岡徳馬の「徳」は旧字体が正式表記

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログtwitter

■放送情報
『同期のサクラ』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00~放送
出演:高畑充希、橋本愛、新田真剣佑、竜星涼、岡山天音、相武紗季、椎名桔平
脚本 : 遊川和彦
チーフプロデューサー : 西憲彦
プロデューサー : 大平太、田上リサ(AXON)
演出 : 明石広人、南雲聖一
制作協力 : AXON
製作著作 : 日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/sakura2019/
公式Twitter:https://twitter.com/douki_sakura

ドラマ10『ミス・ジコチョー~天才・天ノ教授の調査ファイル~』
<連続10回>
NHK総合にて、毎週金曜22:00~22:49放送
出演:松雪泰子、堀井新太、須藤理彩、高橋メアリージュン、余貴美子
第1回:升毅、マキタスポーツ
第2回:宅間孝行、嶋田久作、友川カズキ
第3回:千葉哲也
第4、5回:田山涼成、野間口徹、山中聡、中村靖日
第6回:水橋研二、市川由衣
第7回:滝藤賢一、木下ほうか、駒木根隆介
作:八津弘幸、徳尾浩司、吉田真侑子
音楽:眞鍋昭大
主題歌:[ALEXANDROS]
制作統括:小林大児(NHKエンタープライズ)、高橋練(NHK)
失敗学監修:畑村洋太郎
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama/drama10/jikocho/

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