阿部サダヲVS浅野忠信、決して相容れない2人の争い 『いだてん』があぶり出す“政治の怖さ”
11月17日に放送された『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第43回「ヘルプ!」。「陽気な寝業師」こと川島正次郎(浅野忠信)が本領を発揮し、窮地に追い込まれた田畑(阿部サダヲ)。東京オリンピックの前哨戦であるアジア大会で、田畑は難しい決断を迫られることになった。
前回の放送でオリンピック担当大臣となった川島は、田畑に「河野一郎(桐谷健太)君をはじめ、政府要人が口を揃えて津島(井上順)さんではオリンピックはやり遂げられんだろうって言うんでね」と耳打ちした。しかし田畑のもとへやって来た河野は、田畑が津島を組織委員会から外すと聞いて怒っていた。田畑が問いただすと、河野は「(津島について)そんな話題が出たことすらない」と答える。川島の“寝業”に、田畑も河野も翻弄されていたのだ。
公式Twitterに掲載された浅野のコメントには「外野からバンバン意見を言って決断を迫りながら、いざとなると『決めたのは自分ではない』と手のひらを返して窮地に追い込む。これが“寝業師”たるゆえんですかね」とある。ありもしない発言に振り回される田畑と河野の裏側で、川島は次のターゲットに狙いを定めていた。川島は東(松重豊)に陽気に笑いかけながら「手柄は田畑で、尻拭いは東ってか」「事務総長は首を挿げ替えれば済むがね、都知事は君でないと困るんでねえ」と揺さぶる。川島演じる浅野の笑顔は憎たらしい。それでも魅力的に映るのは、川島が「政治」で高ぶる人物だからである。田畑がスポーツを愛してやまないのと同じように、川島は政治を愛している。彼らの立ち位置は対極だが、愛しているものへの熱量は同じなのだ。
憎たらしいが魅力的な笑顔を見せた川島とは対照的に、今回の田畑は不安げな表情が多い。田畑は政府要人からの「オリンピックを私物化している」との声に「いちいち政治家の顔色伺ってたら何も進まんから独断でやってるんだ。奴らこそ、オリンピックで名を挙げることしか考えとらん。それこそ私物化じゃないか!」と強く反論。だが、川島の見事な“寝業”にねじ伏せられてしまった。IOC総会に参加している間に「津島降ろしの首謀者」に仕立て上げられていた田畑。アジア大会での混乱でも、スポーツに励む若者のために参加を決断することで、東京オリンピックがなくなるかもしれないというジレンマに追い込まれる。
「選手の気持ちを考えるとボイコットなどできない」と田畑は思いの丈を口にする。しかし東から「なんで迷うの?」と問われると、途端に勢いを失う。落ち着きのない動きといつになく焦りを感じさせる台詞回し。これまで情熱的に突っ走ってきた田畑だが、今回ばかりは違う。弱気になった田畑は、亡き治五郎(役所広司)に助言を求めた。けれど、今まで田畑に聞こえていた治五郎の声は「田畑自身の意志そのもの」だったのだろう。追い詰められ弱気になった田畑に、治五郎の声は聞こえない。それでも治五郎の助言を求める田畑の苦しい目つきが印象的だ。
オープニングでの田畑の表情も心に残る。これまではスーツのまま悠々と泳ぐ田畑が映し出されていたが、今回は突然泳ぎをやめ、立ちすくむ田畑が映し出された。打ちひしがれたような表情に不安を感じた視聴者もいたはずだ。