『グランメゾン東京』玉森裕太が抱えていた葛藤 木村拓哉の“言葉にならない”演技が冴え渡る
リンダ(冨永愛)の書いた記事がきっかけで尾花(木村拓哉)の存在がマスコミに知られ、「グランメゾン東京」はオープン初日からキャンセルが相次ぐ。窮余の一策として尾花が考えたのは「こっちから外に出る」ことだった。
『グランメゾン東京』(TBS系)第5話では、3年前のナッツ混入事件の犯人が明らかになった。自分が推薦した「エスコフィユ」が不祥事を起こしたことで顔に泥を塗られたリンダは、フードライターである栞奈(中村アン)の手を借りて事件の真犯人を突き止めようとしていた。一方、祥平(玉森裕太)はグランメゾン東京との関わりを交際中の美優(朝倉あき)の父親に知られ、ホテルを辞める覚悟で尾花の元を訪ねる。
「うちに来てよ」と祥平を誘う倫子(鈴木京香)に対して「反対」と素っ気ない尾花だったが、祥平を誘ってフードフェスに出店。最高級の食材にスパイスを加えて煮込んだ尾花たちのカレーはSNSで話題を呼び、フェスの店舗には行列ができる。グランメゾン東京のほうは相変わらず閑古鳥が鳴いていたが、「美味しいものをつくってる。間違ったことはしてない」という尾花の言葉のとおり、徐々に手ごたえをつかみつつあった。
陰謀と策略が渦巻くレストランを舞台に、日曜劇場ならではのストーリーを小気味よく転がす塚原あゆ子監督の演出が冴えわたった第5話では、尾花や京野(沢村一樹)が抱く今はなきエスコフィユへの思いがあらわになった。回想シーンで祥平がつくったまかないを食べながら、三ツ星を獲れなかった悔しさに顔をゆがませる木村の表情や、沢村のすべてを知って仲間のために泥をかぶるような感情を押し殺した演技に思わず引き込まれる。
しかし、そんな感傷を吹き飛ばすかのように「おっさん同士、無駄に熱い友情みたいなのやめてくれないかな」と倫子は一喝する。「私たちはいま美味しい料理をつくってる。何も間違ってないよね」と尾花に投げ返す場面には、生きた言葉の応酬によって形づくられるドラマの醍醐味が詰まっていた。
表の主人公である倫子と裏の主人公・尾花。個性の異なる2人が両輪になって生まれる推進力が『グランメゾン東京』の魅力だが、徹底して「イヤな奴」を演じる尾花のキャラクターが最高のスパイスになっている。本作での木村については、セリフで語られるものよりも調理シーンや無言の演技などの言葉にならない要素が大きい。「背中で語る」と書くと安易かもしれないが、さまざまな思いを胸の奥にしまって日々を過ごす同世代にとっては共感できるものだろう。