『けいおん!』『バンドリ!』『うた☆プリ』……アニメーションにおける演奏表現の進化を辿る

 今年の7月、老舗音楽雑誌『ロッキング・オン』が自社で音楽アニメのプロジ
ェクトを開始すると発表した(参照:ロッキング・オンが手がける音楽アニメプロジェクト)。

 自社で原案・企画立案し、新人発掘オーディションも行うそうで、出版事業だけでなく音楽フェスを開催するなど、日本のロックシーンを牽引する同社が音楽アニメを自ら作ると聞いて、時代の変化を実感した。現在のアニメ文化を語る上で音楽の存在は欠かせない。アニソンがヒットチャートの上位に食い込むのは当たり前になったし、多種多様なアーティストがアニソンに挑戦している。いまや鈴木雅之のような存在がアニソンを歌う時代である。

 アニソンは、アニメという物語装置に支えられた存在だ。90年代のトレンディドラマが音楽CDの売上に多大な貢献をしたのと同様、アニメという物語体験装置を通して得られる感動や興奮がアニソンへの思い入れに直結している。アニメの内容と音楽の存在が不可分であればあるほど、アニソンへの感動も深まる。近年、音楽を主題にしたアニメ作品は数多いが、ロッキング・オンの音楽アニメプロジェクトもその流れの一環だろうし、これからもどんどん音楽を主題にしたアニメは出てくるだろう。日本アニメにとって、音楽をどう描くかは大きなテーマに一つになっていると言ってもいいかもしれない。

 日本アニメは、架空のキャラクターたちに音楽を演奏させるための様々な努力を重ねてきた。本稿では、その歴史を紐解いてみたい。

日本のアニメはいつから音楽を描き始めたか

 TVアニメのOPとEDに音楽がついているのは、『鉄腕アトム』の頃から常識だが、音楽そのものをアニメの中で描き出したのはいつの頃だったのだろう。

 はっきりとしたことは言えないが、1971年に虫プロが宇多田ヒカルの母、藤圭子をモデルにした漫画『さすらいの太陽』をアニメ化しており、虫プロの公式サイトによるとこれが「日本初、芸能界を描いたアイドルアニメ」ということのようだ。

 裕福な家庭と貧しい家庭の赤ん坊が、金持ちを嫌悪する看護婦の陰謀によって入れ替えられ、成長した2人はともに歌手を目指すのだが、金持ちの家で育った娘は財力でのし上がる一方、貧しい家庭で育った娘はギターをかついで流しの歌手として酒場を渡り歩くといった内容で、まるで是枝裕和の『そして父になる』のような設定のアニメだ。本作では、声の出演者として、藤山ジュンコなどの歌手を起用し、作中でキャラクターたちが歌う楽曲が実際にリリースされるなど、現在の音楽アニメにも通じるビジネスモデルがすでに試みられている。

 とはいえ、この時点では歌唱シーンや演奏シーンの高度な再現性は見られない。主人公ののぞみが用いる楽器は主にギターのみであり、指の動きもなんとなくそれっぽく見える程度の描写に留まっている。

 その後、アイドルや芸能界をモデルにした『スーキャット』や『ピンク・レディー物語 栄光の天使たち』などが製作されたが、『さすらいの太陽』同様、本格的に音楽シーンをアニメで描くという挑戦はお預けになっている。

 本格的な歌唱シーンが大きな話題になったアニメと言えば、やはり1984年の『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』が最初と言っていいだろう。SFロボットアニメに美少女アイドルの要素を盛り込んだ奇抜なアイデアで一世風靡したTVシリーズの劇場版である本作では、振付師として牛丸謙氏がクレジットされている。牛丸氏はタレントやアイドルの振付師として有名で、浅野ゆう子との共著でジャズダンス本を出版するなど本格的な人物だ。本作のクライマックス、ヒロインのリン・ミンメイの歌唱と動きが一体となった動きは、「板野サーカス」で有名な本作の迫力ある戦闘シーンと比類する見どころの一つとなっている。

 『マクロス』シリーズがユニークなのは、大規模な戦闘シーンと歌唱シーンが同レベルの熱量で描かれた点にあり、本作の存在はその後の日本アニメにおける音楽の存在価値を高めたと言っていいだろう。リン・ミンメイ役の飯島真理は本作によって、最初のアイドル声優と呼ばれることもあるが、今日のアイドル声優ブームの先駆け的な存在であることは間違いない。

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