飯テロドラマの元祖! 『孤独のグルメ』『深夜食堂』が愛され続ける長寿シリーズとなった理由

『孤独のグルメ』:未知の食の世界

『孤独のグルメ Season8』(c)テレビ東京

 一方、『孤独のグルメ』だ。これはどうにも真似できない。真似できないから、聖地巡礼を志したこともあったが、それだったら松重豊演じる五郎さんにはなれないし、「孤独のグルメ」にはならないのである。五郎はスマホや本で調べることをせず、「腹が減った」という一言をきっかけに、五感全てを駆使して路地のはずれの隠れた名店を探り当てるからだ。これもまた、なんでもスマホで調べずにはいられない、余裕のない現代人にとって、実際にできそうでできない「サラリーマンの夢」である。ただ、美味しいものを求めて走った先で、本当に美味しいものと巡り会い、興奮するあの感覚をたった一人で極めることほど贅沢で幸せなものはない。

 『孤独のグルメ』は変わらない五郎さんのスマートさに似合わぬ食べっぷりと奔放な「心の声」に笑い、変わらない原作者・久住昌之の「ビールをビールと言いたくないけれどすごく嬉しそう」な感じを楽しむことに限るのだが、シーズン8はオープニングがポップになっただけでなく、いつにも増して登場人物たちのキャラが強い。商談相手で占い師役の八嶋智人に「東南に吉兆あり!」と叫ばれ、突然芝居を始める劇団の主宰役・岸谷五郎に「インスピレーションで探して」と翻弄され、そういった魔物たちから逃げるように路地を彷徨い、味のある店主たちと、絶品料理の数々が待つ店に辿りつく。3話の「銀座のBarのロールキャベツ定食」の甘いロールキャベツも気になるが、何より独特なキャラクターの店主を演じる室井滋に会いたくて、モデルの店を探す人は多いのではないだろうか。

 1話において五郎が、アヒルのパリパリ揚げと釜飯を食べながら「ついさっきまで全く想像もしなかった世界」と独白する場面があるが、『孤独のグルメ』はまさにそういった世界である。シーズン8まで重ねておいて、視聴者をいつも「ついさっきまで全く想像もしなかった」未知の食の世界に連れて行ってくれる。しかもそこは実在するのである。なんと幸せなことだろうか……。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
ドラマ24『孤独のグルメ Season8』
テレビ東京系にて、 毎週金曜深夜0:12〜0:52
※テレビ大阪のみ、翌週月曜深夜0:12〜
主演:松重豊
出演:久住昌之(ふらっとQUSUMI)ほか
原作:『孤独のグルメ』作/久住昌之・画/谷口ジロー(週刊SPA!)
脚本:田口佳宏、児玉頼子
音楽:久住昌之、ザ・スクリーントーンズ
演出:井川尊史、北畑龍一、北尾賢人
チーフプロデューサー:阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー:小松幸敏(テレビ東京)、吉見健士(共同テレビ)、菊池武博(共同テレビ)
アソシエイトプロデューサー:川村庄子(テレビ東京)
(c)テレビ東京
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kodokunogurume8/

■配信情報
Netflixオリジナルシリーズ『深夜食堂-Tokyo Stories Season2-』
今秋、Netflixにて全世界独占配信
出演:小林薫、不破万作、綾田俊樹、安藤玉恵、松重豊、余貴美子、オダギリジョーほか
監督:松岡錠司、山下敦弘、小林聖太郎
脚本:真辺克彦、向井康介、小嶋健作、大島まり菜
フードスタイリスト:飯島奈美
ゲスト出演:仲村トオル、柄本明、柄本佑、勝地涼、永山絢斗ほか
エピソード:全10話
原作:安倍夜郎『深夜食堂』(小学館『ビッグコミックオリジナル』連載中)
Netflix:https://www.netflix.com/jp

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