『空の青さを知る人よ』が示した岡田麿里のネクストステージ 『さよ朝』以降の作風から考える

『空の青さを知る人よ』岡田麿里の次のステージ

 岡田は2017年に『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』という自伝を発表しているが、その中でも登校拒否を重ねていた時代や母親との確執について明かしている。インタビューでは『あの花』はその時代を引きずっていたと答えており(参考)、岡田が親との確執を多く描いていたのも自身の体験からくるものだろうと想像できる。しかし『さよ朝』において母と子の結びつきを描くことでそのテーマに対して1つの区切りがついたのではないだろうか。

学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで(文藝春秋)

 自伝の中で岡田は『心が叫びたがってるんだ。』というタイトルについて、長井龍雪監督と意見を戦わせながらも、このタイトルにしたいと主張したと明かしている。その理由について岡田は「誰かに、どこかに、叫んでぶつけたいことがある訳じゃない。ただ、ひたすら叫びたいという欲求だけはある。胃の中に沈殿する、もやついた名前のない魂のようなもの。それを吐き出したい」と語っている(『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』P.253)。 

 『あの花』『ここさけ』『さよ朝』と経て、岡田の中にあった思いが少しずつ吐き出された先にあるのが『空の青さを知る人よ』だと感じさせられた。その結果、過去作にあった親との確執やセクシャルな単語が少なくなり、苦手意識を持っていた人でも楽しめながらも、岡田の魅力を損なわない物語となっている。10代の観客であれば、あおいが恋や進路に悩む姿に共感するだろう。

 また『とらドラ!』や『あの花』などの長井監督と岡田が脚本を務めた作品を10代の頃にリアルタイムで楽しんでいた人も多くはアラサーとなり、あかね達が自分と同じような悩みを抱いていることに共感し、映像の快感とともに昇華されるシーンを経て鑑賞後は勇気付けられる作品になっている。若者の思いを描いてきた長井監督の作風と岡田の脚本の魅力が発揮されており、老若男女問わず多くの方に受け入れられ愛されるであろう。アニメ監督や漫画の原作など多くの挑戦を続ける岡田の活躍に今後も目が離せない。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■公開情報
『空の青さを知る人よ』
全国公開中
声の出演:吉沢亮、吉岡里帆、若山詩音、落合福嗣、大地葉、種崎敦美、松平健
監督:長井龍雪
脚本:岡田麿里
キャラクターデザイン・総作画監督:田中将賀
主題歌:あいみょん(unBORDE/Warner Music Japan)
(c)2019 SORAAO PROJECT
公式サイト:https://soraaoproject.jp/

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