「コンテンツ立国」を目指すためには必須? デジタル時代の日本における、映像アーカイブの重要性
国会図書館法が制定された1948年は、コダック社が燃えにくい新素材フィルム「アセテートフィルム」の実用化に成功した年だ。富士フィルムが同様の素材を実用化したのは1954年、日本の映画製作が全てアセテートフィルムに切り替わったのは1958年のことになる。だが、フィルムが燃えにくい素材に変わっても納入免除の附則はそのまま残され現在にいたっている。
ちなみにナイトレートフィルムの主な原料はニトロセルロースである。ウィキペディアでもニトロセルロースの主な用途として、ナイトレートフィルムは銃火器用の火薬ともに紹介されている。つまり、昔のフィルムは火薬みたいなもので、自然発火することすらあったらしい。実際、ナイトレートフィルムによって多くの火災が発生し、そのことも古い映画の消失の原因となっている。
映画の納入制度が実現していない国は日本以外にもあるが、アジアで見てみると中国や韓国にはすでに納入義務が法によって定められている。それどころか北朝鮮にもある。むしろ、中国と北朝鮮の二カ国はオリジナルネガフィルムを含む全素材の納入を義務付けており、単純に保存の観点から見ると最も理想的と言えるかもしれない。しかし、これは、戦中の日本の例と同様、検閲のために定められているのだろう(参照:フィルム・アーカイヴ運動 世界の動き)。
映画の収集の法的な課題をざっと拾ってみたが、納入制度と検閲の相性の良さは絶えず注視しなければならないが、やはり法的な納入制度の確立は必要だと筆者は考える。映画のデジタル化の進んだ現在では、加速度的に作品数が増えており、それらを全てアーカイブ化するには法的制度がなければほとんど不可能なのではないだろうか。
デジタルジレンマ
映画のデジタル化が進んだと先に書いたが、デジタル化の波は映画アーカイブの世界に大きな問題を生み出した。HDDやDVDなどのデジタル記録デバイスは実は物理的な寿命が短く長期保存に向かないということだ。この指摘は2007年、映画芸術科学アカデミーのレポート「ザ・デジタル・ジレンマ」が詳しいが、レポートは「デジタル資産の長期に渡るアクセス性を保証できるメディアもハードウェアも今のところ存在せず、アーカイブとして満足できる唯一の形体はフィルムしかない」と結論づけている。
デジタルは長期保存に向かないだけでなく経済的にもフィルムに劣るとも言われている。デジタル素材は寿命が短いため、長期保存するにはデータの移行を繰り返す必要があるが、そのコストを長期に渡って試算すれば、フィルム保存以上にコストがかかるということだ。なので、現状のデジタル素材の保存は定期的なデータ移行を繰り返し、画期的な新素材の登場を待っているという状態だ。
デジタルジレンマの対応としてフィルム会社のコダックや富士フィルムは長期保存用のアーカイバル・フィルムを開発した。現状では、デジタルデータをアーカイバル・フィルムにコンバートするのが最も有効な保存方法になるようだ。