黒木華と高橋一生が母親と対峙する 『凪のお暇』それぞれの“お暇”に出口が

「私……お母さんのためには生きられない。自分でなんとかして。私も自分で自分をなんとかするから。期待に応えられなくてごめん。期待に応えない自分のほうが、みっともない自分のほうが、私、生きてて楽しいんだ」

 中秋の名月が輝く夜、『凪のお暇』(TBS系)第9話。秋の訪れと共に、凪(黒木華)のひと夏の“お暇“にも終わりが見えてきた。凪は、小さい頃から自分をコントロールしてきた母親・夕(片平なぎさ)に対し、初めて自分の思いをぶつけたのだ。

 「みっともない髪」「トウモロコシがかわいそう」「お母さん恥ずかしくて死ぬしかない」……持って生まれたものを否定され、母親にとって望ましくない状況になると、自分のせいだと罪悪感を煽られ続けてきた凪は、いつしか目の前の人にとっての正解ばかりうかがう性格に。

 上京して、物理的に地元を離れてもなお、母親の「ちゃんとして」の呪いは、なかなか解けない。龍子(市川実日子)やゴン(中村倫也)は、きっとそんな育ち方はしてこなかったのだろう。今の“ありのままの凪でいけばいい“と、母親との対面を応援する。だが、同じような子供に空気を読ませる母親を持つ慎二(高橋一生)には、そんな気休めの言葉は口にすることができなかった。

 「モジャモジャがいい」。そんな慎二の言葉が、誰よりも、今のありのままの凪を認めているのだと伝わってくる。自分の親に立ち向かうことが、どれほど難しいことか知っているからこそ、そう慰めるのが精一杯だったのだろう。

 さらに、凪を追いかけてきた夕に、得意の貼り付き笑顔と営業トークでうまいこと言って、場を収めようとする慎二。凪との交際が今も続いていること。そして郊外のアパートにいるのは、自分と結婚するためだ……と。だが、助け舟を出したつもりが、慎二の家族まで巻き込む結果になってしまうのだった。

 初めて家族の前で空気を読んで取り繕う慎二を見た凪は、改めて自分と慎二が似た者同士であることを自覚する。「変わりたい」と願った自分に「変われない」と言い放った慎二を、最初は母親のようにコントロールする側に見えたかもしれない。だが今は、それが自分と同じ境遇だからだったと気づいたのだ。

 空気を読むことを強いられて育つと、自分に向けられた発言はすべて、相手が自分を支配しようとしているように聞こえて、素直に受け取れないことがある。また否定され続けてきた経験から、人とはそもそもわかり合えないと思い込み、本音を言っても仕方ないと諦めるようになる。凪がスナック「バブル」で、客たちと会話のキャッチボールができなかったのも、根底には母親とのコミュニケーションが取れなかったところにあるように見える。

 そんな凪が、意を決して母親に「嫌い」と立ち向かったのだ。もしかしたら、「みっともない家族」と言われた慎二に、かつての幼い自分を重ねて守ろうとしたのかもしれない。人は往々にして、誰かを救おうとして、自分自身が救われるものだ。お互いの家族のもとから逃げた凪と慎二は、同じタイミングで膝から崩れ、泣きじゃくる。まるで、親を見失って迷子になった子供のように。

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