『ライオン・キング』は“いま観られるべき映画”なのか 映像表現は革新的だが、価値観は後退!?

 ライオンがすべての動物を支配するという、現実にあり得ない動物界の統治システムを成立させながら、その上で善悪を描くこと自体に、かなり無理があるのだ。そして、本作を含めてディズニーが描いてきた王国の物語自体が、現代の社会においては保守的なものとして映ってしまうことも事実である。

 オリジナル版同様に、シンバがたどり着いた、動物同士に上下関係のない共同体が虫を食べているように、現実の食糧危機においても、生産するコストが高い家畜を育てる肉食よりも、穀物を中心にした方が、人口増加による食糧危機に対応することができるというデータがある。そのように進歩的な文化にシンバが触れながら、「王の魂」のような血族的な誇りを理由に、彼は昔ながらのシステムへと回帰してしまう。このような進歩性からの脱出は、近年新しい社会的な要素を描いてきているディズニー作品としては、価値観が後退しているような印象を受ける部分である。革新的な映像以外の点において、本作が“いま観られるべき映画”であるかどうかというのは、怪しいところなのではないだろうか。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ライオン・キング』
全国公開中
監督:ジョン・ファヴロー
声の出演:ドナルド・グローヴァー、ビヨンセ
日本語吹替版:賀来賢人、門山葉子
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/lionking2019.html

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