『なつぞら』オープニングに22歳の若手アニメーターが抜擢された理由 「ヒロインが描いたように」

『なつぞら』アニメーション担当インタビュー

刈谷「タイトルバックも実写だと撮れない映像」

ーー『なつぞら』のタイトルの題字はカリグラフィーという手法が使われていますね。

舘野:カリグラフィーは、そんなに詳しいわけではないんですけど、以前から素敵だと思っていて、昔のディズニー作品も『ピノキオ』や『シンデレラ』『白雪姫』など全部カリグラフィーなんです。『白雪姫』だと最初に絵本が出てきて扉が開くと、クジャクが字に絡まっているんです。今回タイトルバックの字を描くときに「これを参考にさせもらおう」と考えました。普段から色んなものに興味を持っておくと、点と点が繋がって素敵なものになる時があるので、刈谷に本を渡して、「こんな風に描いて」と。

刈谷:最初描いたものが、普通のフォントにちょっと装飾したようなもので、私自身もしっくりきていなかったんです。それを一旦舘野さんに見せた時に、「『なつぞら』だけのフォントにしてほしい」と。

舘野:のちに「これは刈谷さんのフォントだ」と言われるようなものを目指してねと言いました。

刈谷:私もディズニーの要素を吸収したりとか試行錯誤した末に今の『なつぞら』のフォントができたんですけど、タイトルバックで動かすときに、CGではなく作画で字を動かすような演出になるんだろうなと想像はしつつ、あまり派手にしすぎずに素朴にもなりすぎないよう意識しました。

ーー作中でなつや坂場(中川大志)が、「アニメーションにしかできない表現」に悩むシーンがありました。お二人にとって「アニメーションにしかできない表現」とはなんでしょう?

舘野:難しいですね。やはりディズニーはほぼ全てやり尽くしていると思うんです。特に昔の画力もあって教養もあった人が描いていた作品、『白雪姫』や『シンデレラ』などは、中に女優や俳優が入っているような動きになっています。実在しないはずの名優の演技をアニメーションなら描けるんです。頭に思い描いた人間を動かすことが、「アニメーションにしかできない表現」なのではないかと思います。

刈谷:私もそこは研究中でして、答えが全然見つけられていないんです。それはこれからも考え続けると思いますが、頭の中で描いているものをそのまま表現できるということなのかな。

舘野:なつさんも言ってたけど、「想像力に手が追いつかない」って。考えていること全て描けているかというとそうでもない。それはどんなに上手になった人でもずっと悩んでいると思います。いわゆる神絵師と称される方でも、みんなには褒められても、もっともっと素敵なもの描けるはずなんだけどなって。

刈谷:この間『なつぞら』でやっていた残像の表現とかまさにそうですよね。手を振るにしても1枚の絵の中に指が何本もあったり、絵だからこその面白さだと思いますし。

舘野:タイトルバックで、クマがぶつかったり、なっちゃんがこけても、その後怪我していなかったり、あれも素敵な表現だよね。

刈谷:タイトルバックも実写だと撮れない映像なんじゃないかと思います。

舘野:みんなが心に描いたやってみたいなということを実現できるのもアニメーションならではですよね。

(取材・文=安田周平)

■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)~全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮、清原翔/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也、田中健二ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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