中村倫也が提示する様々な幸せの形 『凪のお暇』が描く“持つ者と持たざる者“
自分は、何を持っていたら幸せなのか。その優先順位が明確になれば、あれもこれも「持っていない」と自分を卑下せずに済む。うららの場合は、大好きなお母さんと一緒にいたいという思いが一番だった。それが見えれば、その他の持ってないモノは、とりあえずあるもので代用して楽しめる。ワンちゃんは飼えないけれど、代わりに凪のフワフワ頭をなでて楽しむのもその工夫のひとつだ。そして、本当に手に入れたい優先順位が上がったら、その実現に向けて作戦を立てればいいのだ。
しかし、大人だってそれができる人は難しい。ハローワークで知り合った坂本龍子(市川実日子)も、自分の中で何が大切なのかを見失いがちだ。ラッキーアイテムも、友だちを失うほどのめり込んで、孤独を悲しんでいるのだとしたら本末転倒。だが、多くの友人は去ったけれど、凪だけがちゃんと向き合ってくれた、そんな友だちができたのはやはりラッキーアイテムのおかげだと思うのだろうか。龍子ならではの幸せの形も気になるところだ。
そして、やはり注目なのが、凪の元恋人・我聞慎二(高橋一生)のこじらせっぷりだ。自分と同じように「空気を読まなきゃ」といつもその場を取り繕っていた凪が可愛かったのに……と慎二の行動はさらに“好きな子をいじめる“少年のようになっていく。ババ抜きで負け続ける凪に“集団野中で最も傷つきやすく、いじめやすそうな人が敗者になるように決まっている“というホットポテト理論を持ち出して、再び凪の心を支配しようと目論む。だが、ゴンの「俺ならポテト食っちゃう」の一言で台無しに。
そして緑の「男女の悲劇はいつだって言葉足らず」のアドバイスを受けて、ただ「好き」と凪に伝えようとするも、「好き? なんだろ、俺のこと」と、またもや口が勝手に滑り出す。凪を「彼女だ」と友人に紹介したかったのにできなかったバーベキューも、凪に立ち聞きされてしまった同僚との「体の相性」発言も、振り返ってみたら慎二こそホットポテト理論に当てはまるのではないか。
何も“持っていない“人は、何からも支配されない。一方、手放したくないと抱え込む人こそ、ぎゅうぎゅうに詰め込んだクローゼットのように、心がいっぱいいっぱいになりやすい。このドラマを見て、私たちの心のクローゼットはどうだろうか、と振り返りたくなる。失うのが怖いと怯えたり、あれもこれもまだ手にしていないと必死になったり、もともと何を持っているのかわからなくなってはいないだろうか。しかし、仮に失ったとしても、凪のように持っていない分、新しいものを受け入れられたり、「何もないを楽しむ」ことができれば何も怖くない。
(文=佐藤結衣)
■放送情報
金曜ドラマ『凪のお暇』
TBS系にて、7月19日(金)スタート 毎週金曜22:00~22:54放送
出演:黒木華、高橋一生、中村倫也、市川実日子、吉田羊、片平なぎさ、三田佳子、瀧内公美、大塚千弘、藤本泉、水谷果穂、唐田えりか、白鳥玉季、中田クルミ、谷恭輔、田本清嵐、ファーストサマーウイカ
原作:コナリミサト『凪のお暇』(秋田書店『Eleganceイブ』連載)
脚本:大島里美
演出:坪井敏雄、山本剛義、土井裕泰
プロデューサー:中井芳彦
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/NAGI_NO_OITOMA/