向井理にセカンドブレイクの兆し 観る者の心をざわつかせる無防備な表情

 誰だって大なり小なり演じている部分はあって他人や家族に対してだって本心を隠して顔を作っているもので、向井理は他人には無論わからず、自分自身すらつかみどころのない無意識を表現できる面白い俳優だと思う。あまりに無意識過ぎると危うい人になってしまうのだが、そこは“イケメン”(もうそんなことは言われたくないだろうけれど、整って好感度の高い顔のつくりをしていることは紛れもない事実なので)のポテンシャルでカバーできる。そここそ向井理の美点のひとつなのだ。ケレン味たっぷりの劇団☆新感線の舞台でさえ、向井理は大きな舞台用に作った顔をあまり見せずナチュラルにやりきった感じがあってたまげた。

 向井理の無防備な表情が、本心をわからなくさせるし、何が刺激を受けて感情が激しく湧き上がってきたとき大きな差異として見る者の心を揺さぶる。『美しく青く』は主人公に何かがあるんじゃないか、何かが起こるんじゃないかと、終始、気持ちがざわついて収まらない。そして、見終わった後、主人公の心のなかにどれだけ、この町で生きてきた時間と感情があるかを思い知らされるのだ。

 人間とは巨大な宇宙のなかでいかにちっぽけな存在であるか、向井理の静謐な表情はそれを突きつけてくる。ただそれは決して諦念ではなく、それでもできる限りもがいていく意思が滲むのだ。

(撮影=細野晋司)

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■舞台情報
『美しく青く』
Bunkamuraシアターコクーンにて2019年7月11日(木)~7月28日(日)
作・演出:赤堀雅秋
出演:向井理、田中麗奈、大倉孝二、大東駿介、横山由依、駒木根隆介、森優作、福田転球、赤堀雅秋、銀粉蝶、秋山菜津子、平田満
主催:Bunkamura/テレビ東京
公式サイト:http://www.kyodo-osaka.co.jp

■放送情報
『ゲゲゲの女房』
NHK総合 毎週月曜から金曜
午後4時20分から午後4時50分 1日2回ずつ放送

原案:武良布枝
脚本:山本むつみ
出演:松下奈緒、向井理、大杉漣、古手川祐子、有森也実、星野真里、星野源、桂亜沙美、大倉孝二、永岡佑、杉浦太陽、南明奈、平岩紙、鈴木裕樹、大下源一郎、朝倉えりか、うじきつよし、梶原善、風間杜夫、竹下景子、松坂慶子、村上弘明、野際陽子ほか

初回放送
2010年3月29日から9月25日
総合 連続テレビ小説として放送

 

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