雪次郎と雪之助、二人の夢の狭間で悩むなつ 『なつぞら』若い情熱は東洋動画を変える?

 坂場(中川大志)との会話の最中、よろけてこけそうになったなつ(広瀬すず)。坂場は手を伸ばして救う。光の演出と相まって、思わず恋の予感を視聴者に抱かせた前回だったが、なつにその兆候はないようだ。それどころか、壁に追いやられる坂場の挙動には、どこか少女漫画のヒロインのような雰囲気すら感じさせる。手をぐるぐる振り回す動作から、なつは何かを感じ取り、動画用紙へと向かう。

 前週から坂場と議論になった牛若丸が馬で坂を駆け下りるシーンだ。完成し麻子(貫地谷しほり)と下山(川島明)たちに見せた動画は、なんと馬の前足を4本描くというもの。本来、高速でコマ送りすることで発生するはずの残像を、最初から絵として描いてしまい動画に説得力をもたせたのだ。リアリティを一度無視することで、動画として観客が見た時にリアリティを感じさせる、まさしく坂場が言うところの「アニメーションにしかできないもの」だろう。

 そんななつの渾身の1投に理解を示せないでいるものがひとり。演出の露木(木下ほうか)だ。彼も未だにアニメーション映画の表現を模索しているもののひとりである。そのためなつの描いた動画を「こんなもの見たことないから」という理由ではねのけてしまいそうになる。

 そこで、仲(井浦新)が露木に語りかけた言葉がまた胸を熱くさせる。

「東洋動画には、ディズニーのような予算も時間も人手もありません。あるのは若い情熱だけです。世界の壁を越えようとするなら、そこにかけるしかないじゃないですか」

 情熱に火を灯し、独自の表現を追い求める人たちの魂の叫びだ。彼らのこの苦闘こそが、日本のアニメーションという今や世界的コンテンツへと成長した種火そのものなのだ、ということを改めて実感させる。

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