『パージ』シリーズが描く恐怖の正体 B級映画的発想に現実世界が近づきつつある?

本作が届ける“最新系の恐怖”、その実態とは

 デモナコがサブテキストとして織り交ぜてきた本シリーズの社会性を受け継ぐだけに留まらず、いま現実に横たわる問題に直結させた恐怖を演出するジェラルドの手法は、批評家たちから「現代版ジョージ・A・ロメロ」と評される。60、70、80年代に一作ずつ発表されたロメロのゾンビ3部作はそれぞれ公民権運動、過剰な物質主義、貧富格差といった各時代が抱える社会問題を風刺的に描いたが、本作ではまさにトランプ政権下によって露わとなった人種問題を暴く内容となっている。その理由についてデモナコは「パージ法はいわゆるB級映画的発想だったかもしれない。しかし、こんなことが実際に起こり得る世界になってきてしまっている。そして悲しいことに現在、特に移民問題に関して現実にパージ的状況が起こっている」と分析している。

 その言葉通り、第1作『パージ』が製作された2013年ではフィクショナルに見えていたディストピア的設定に現実世界の方が近づきつつあるという顕著な例が実際に挙がっている。それは、2016年大統領選挙期間中に公開されていた第3作目『パージ:大統領令』のキャッチコピー“Keep America Great(アメリカを偉大なままに)”と全く同じ文言をトランプ本人が2020年のスローガンとして掲げることを発表し話題となったことだった。プロデューサーのブラッドリー・フラーは「トランプが本作を観たとは思えないが、彼がこの作品と同じことをしても私たちは何も驚かないね」とコメント、更に続編『パージ:エクスペリメント』のティーザー画像にトランプ支持者らのアイコンである“トランプ帽”をモチーフとした赤い帽子を掲載し、映画公開に合わせて立ち上げられた架空の政党“アメリカ建国の父 NFFA”オフィシャルページ上でこの帽子をプレゼントするというロメロも驚くであろう風刺色たっぷりのキャンペーンを行った。 

 NFFAオフィシャルページには彼らの公約が次のように綴られている。「我々NFFAによって、経済破綻した世の中を蘇らす施策としてアメリカ史上初の素晴らしい実験を始めようとしている。それがパージだ。我々は諸君の自由のため立ち上がった。ただそのためには諸君のサポート、つまり投票が必要で、諸君一人ひとりの声が重要なのだ。諸君の存在をこのアメリカ史に刻むのは今なんだ!」。 

 ここには、ジェイソン・ブラムの「社会でメッセージを受け取る際に注意深く判断して、警戒しなければならない。国民が”パージ法”に賛成したのは、”建国の父”の社会への伝え方が上手だったから。”パージ法”は国民にとって良い法律で、制定すれば貧富の差に関係なく社会のためになる、というイメージを植え付けたんだ。いい側面は、何をやっても許される1夜が楽しい! ということ。多くの人がそのいい側面だけを受け取った。社会の残念な反応だよね。それだけじゃなくて、この作品は、力の強い権力者が考えを社会に植え付ける姿も描いているんだ」という、本作にこめられた切なる思いが見て取れる。 

フィクション作品のディストピア的世界観が現実感を伴って我々の目に映るというのは、なんとも皮肉な現状だ。『パージ:エクスペリメント』はスリルで観客たちを楽しませるホラー映画の最新系にして、トランプ政権時代に生きる観客に「自分ならどうする?」と当事者意識を実らす1作となっている。 

参考

https://www.blackfilm.com/read/2017/07/burning-sands-gerard-mcmurray-direct-purge-island/ 
https://www.theverge.com/2018/7/10/17555524/the-first-purge-series-politics-trump-anarchy-election-year 
http://www.newfoundersamerica.org/ 
https://fansvoice.jp/2019/04/19/purge-exp-nffa-website/ 

■菅原 史稀
編集者、ライター。1990年生まれ。webメディア等で執筆。映画、ポップカルチャーを文化人類学的観点から考察する。Twitter

■公開情報
『パージ:エクスペリメント』
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中
監督:ジェラード・マクマリー
脚本:ジェームズ・デ・モナコ
製作:マイケル・ベイ、ジェイソン・ブラム
出演:イラン・ノエル、レックス・スコット・デイヴィス、ジョイヴァン・ウェイド、クリステン・ソリス、マリサ・トメイほか
配給:シンカ/パルコ
2018年/アメリカ/カラー/デジタル/英語/原題:The First Purge/106分/R-15+
(c)2018 UNIVERSAL STUDIOS

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