『わたし、定時で帰ります。』インタビュー
桜田通が『わたし、定時で帰ります。』の一ファンとして思うこと 「弟役ハードルめっちゃ高い!」
「人間って違うんだ、比べる必要なんてないんだなって」
――柊という役柄から、客観的にドラマを楽しまれているとおっしゃっていましたが、お話を聞いているともともと桜田さんは物事を俯瞰して見ているように感じます。
桜田:そうですね。この仕事は、生まれたままの姿じゃいられない時間のほうが多いじゃないですか。役を演じるということもそうですし、求められる姿に自分を近づけることが多くて。普段、僕がやりたいことを選択するのは、自分の心に従っていますが、どこかで自分の存在を客観的に見ている感覚があるんですよね。
――セルフプロデュースしているような?
桜田:はい。自分のありのままでいたら、僕はまったくこの業界に向いていない人間なので(笑)。周りには向井さんのようなすごい方がたくさんいて、本当は柊のように引きこもっていたいです。そんな現状を整理するためにも客観視するしかなかったのかもしれません。何度も例に出して申し訳ないですけど、向井さんを見ると「ああ、自分が1個も勝ってるところなんてないな」と思うわけですよ。でも、客観的に見れば、同じ容姿でもないし、性格も、声も、何もかも違うのに、比べる必要なんてないよなって。そう思えるようになってから、超えたかった自分に超えられないときは悔しいですけど、人と争って悔しい思いをすることがなくなりましたね。自分が自分だから、今回も柊という役を演じられて、幸せだなって。
――何歳ごろからそうした視点で周囲を見るようになったんですか?
桜田:たぶん、20歳くらいですね。ロンドンに半年くらい留学していた時期があって。そのときに「あー、本当に1人ひとり人間って違うんだ、比べる必要なんてないんだな」って気づいたんです。それまでは、やっぱり僕も人と自分を比べて悔しがったり、「アイツうぜー」と思うこともあったんですけど(笑)。でも、20代になってからは「この人苦手だな」って思う人が全くいないわけじゃないですけど、別物として考えられるというか。この作品を見ていても、1人ひとり違うんだなって改めて思うんですよ。
――たしかに、福永(ユースケ・サンタマリア)やモンスター社員たちを徹底的に悪役にすることもできたはずなのに、この作品ではそうはしていない。そこが面白さでもありますよね。
桜田:そうなんですよ。ブラック上司と見られている福永ですら、福永の正義がある。僕は、その留学をきっかけに「それぞれ正義があるんだ」って気づいたので、感情に波風が立たなくなりました。もちろん、自分にイライラしたり、自分を残念だなって思うこともありますけど、人がイヤなことをしてきても「この人からの視点の世界では、そうするしかなかったのかな」って思うようになりましたし、もしかしたら自分も「正しい」と思ってとった行動が結果的に誰かにそういうふうに思わせてしまっているのかもしれない。だから逆に、自分に対してすごく良くしてくれる人たちがいたら、2倍よく感じるようになったんですよね。それぞれ個々に生きているのに、僕に対して良い感情を芽生えさせてくれるような人がいるんだっていう気づきは、本当に幸せで。そういう人との出会いが、今の自分のモチベーションかもしれません。
「自分が幸せになるように動いて、周りも幸せにできるような人間に」
――桜田さんは、俳優という「仕事」を楽しまれていますか?
桜田:うーん。この仕事って、好きなことを好きでやってる人たちの集まりって見られがちなんですけど、僕は人前で話すのが苦手で(笑)。昔はすごくイヤだったんですよ。セリフ覚えるのだって正直大変ですし。でも、そのしんどい部分を乗り越えた先に味わえる楽しさがあって。僕自身は、人と人とがいい関係を築けているのが、今の1番の幸せなんですよ。だから、それができているので、楽しめていますね。その楽しいとしんどいのバランスというか、エネルギーの使いどころを個人がラクに調整できるようになったらいいのになと思っています。
――今後は「こんなふうに働いていきたい」という理想はありますか?
桜田:ありがたいことに、現状楽しい仕事のほうが多くて。もちろん、試練を感じている場面もあるんですけどね。9話では柊くん、びっくりするくらいしゃべるんで(笑)。セリフを覚えるのは、相変わらず大変です。でも、それって役者としてはとてもありがたいことなので乗り越えられるんですけど。そういうしんどさを乗り越えるモチベーションが、自分自身だけじゃなくて、自分に好意的に関わってくださっている人が幸せになることを意識していきたいなと思っているんです。自分ができることを、一つひとつもっと丁寧にしていきたくて。自分の行動に対しての責任が、自分だけじゃないっていうことを意識して生きていかないといけないなと。そうしたら、きっと結衣みたいに自分が幸せになるように動くことが、周りの幸せにつながるんじゃないかなって。そういうふうに、この仕事をしていきたいって思っています。
(取材・文=佐藤結衣/撮影=池村隆司)
■放送情報
火曜ドラマ『わたし、定時で帰ります。』
TBS系にて毎週(火)22:00~放送
原作:朱野帰子『わたし、定時で帰ります。』シリーズ(新潮社刊)
出演:吉高由里子、向井理、中丸雄一、柄本時生、泉澤祐希、シシド・カフカ、内田有紀、ユースケ・サンタマリアほか
脚本:奥寺佐渡子、清水友佳子
演出:金子文紀、竹村謙太郎
プロデューサー:新井順子、八尾香澄
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/watatei/