『なつぞら』東洋動画のモデルとなる人々は? 日本の「漫画映画」の礎築いた東映動画のレジェンド

スタジオジブリと宮崎駿を支えた2人の女性

 彩色担当のなつの隣席で、なつの親友になる森田桃代(伊原六花)、愛称「モモッチ」。モデルとされているのは、アニメーションの色彩設計を行ってきた保田道世だ。

エンピツ戦記 - 誰も知らなかったスタジオジブリ

 東映動画で宮崎駿、高畑勲と出会った保田は、その後、高畑が監督した『母をたずねて三千里』(76年)、宮崎が監督した『未来少年コナン』(78年)などの作品に仕上げ、色指定として携わり、『風の谷のナウシカ』(84年)以降は30年間にわたってスタジオジブリのほとんどの映画で色彩設計を担当した。『なつぞら』でアニメーション監修を行っている舘野仁美は、スタジオジブリで一緒に仕事をしていた保田を「仕上部のボス」と表現している(『エンピツ戦記 誰も知らなかったスタジオジブリ』中央公論新社)。

 ところで『なつぞら』には自分の仕事が終わった男性のアニメーターが仕上げの作業を手伝いに来て、仕上げの女性たちと仲良く仕事をする場面があるが、実際にそこからロマンスに発展することも多かった。宮崎は「昔はアニメーターと仕上は仲良しだったのに。分業で、結婚の道はなくなってしまった」と振り返っていたという(前掲書)。

 なつと一緒に社内試験を受ける三村茜(渡辺麻友)のモデルは、アニメーターの大田朱美とされている。大田は『白蛇伝』を皮切りに、多くの長編作品に参加。65年に組合運動を通じて知り合った後輩にあたる宮崎駿と結婚した。

 その後、2人の子どもを出産。共働きでアニメーターとして活躍していたが、宮崎が東映動画を退社してAプロダクションに移籍したのを機に退職した。宮崎が会長を務める市民団体「淵の森の会」の安田敏男氏は、大田がアニメーターの仕事への未練について語っているのを聞いたことがあるという。2人の絵はどちらが描いたかわからないほど似ているそうだ(女性自身 2013年9月13日)。長きにわたって愛妻弁当を作り続け、宮崎の仕事を支えていたことも知られている。

宮崎駿の盟友

 カチンコが下手な演出助手として登場した坂場一久(中川大志)。モデルとされているのは、『火垂るの墓』(88年)、『かぐや姫の物語』(13年)などを手がけた高畑勲監督だ。坂場は東京大学哲学科出身という設定だが、高畑は東京大学文学部仏文科出身である。

 坂場となつが『わんぱく牛若丸』の動画について言い争う場面があるが、本作のアニメーション時代考証をしているアニメーターの小田部羊一は、『わんぱく王子の大蛇退治』(63年)の際、高畑とこのような言い争いをしたことがあると打ち明けている(FRIDAY DIGITAL 6月10日)。坂場となつはアニメーションにおけるリアリティについて議論していたが、それはまさに高畑が一生をかけて追い求めたテーマだった。

 高畑と宮崎駿は東映動画で『太陽の王子 ホルスの大冒険』(68年)を作り上げ(高畑が演出、宮崎は場面設計・美術設計)、その後もスタジオジブリをともに設立するなど、さまざまな仕事をともにした盟友と言える関係。2人は奥山玲子の後輩にあたるが、奥山も2人の仕事ぶりから大きな影響を受けていた。奥山は『火垂るの墓』に参加した後はアニメーションから引退することを考えていたという(奥山玲子ホームページより)。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)~全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、岡田将生、比嘉愛未、安田顕、仙道敦子、山田裕貴、藤本沙紀、山口智子、高畑淳子ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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