#MeToo時代の今語られるにふさわしいテーマ 『コレット』は一人の女性の自立を描く

 本作で初めてコレットが男装するのは、ウィリーに『クロディーヌ』シリーズの新刊がなぜ二人の名前で出されないのかを詰め寄る場面だが、コレットの人生を映画化した過去作品『コレット・水瓶座の女』(ダニー・ヒューストン、1991年)では、コレットが『クロディーヌ』シリーズを書いたのは、ウィリーではなく自分だと男たちの目の前で告白するシーンで、まさに男装の姿をしていた。『男装論』(青弓社、1994年)の著書である石井達朗によれば、コレットの男装は、「男社会のイミテーションを演じているのではなく、当時のパリ社交界の男女のジェンダーを侵犯するようなある種の力を表現している」という。

 最近よく耳にした「キャンプ」という言葉は、アメリカの文芸批評家であるスーザン・ソンタグが唱えた、豊かで多様な審美的思想を意味する。『オーシャンズ8』(ゲイリー・ロス、2017年)で、女たちの盗みの舞台にもなった煌びやかなファッションの祭典メットガラが、この「キャンプ」にオマージュを捧げてつい先日行われたことは、私たちの記憶にも新しい。キャンプ的なスタイルを持つ人やものが列挙された本『Camp: The Lie that Tells the Truth』(フィリップ・コア、デライラブックス、1984年)に、コレットの名が連ねられているように、コレットの男装を含むファッションには、このキャンプ性を見いだすことができる。彼女は自らの衣服を以ってしても既存の価値観に抵抗し、自由な精神で人生を闊歩することを美学としていた。

 「影のような生活-ライフ-。影のような妻-ワイフ-」とは、『ヒロインズ』(ケイト・ザンブレノ、西山敦子訳、C.I.P.ブックス、2018年)の一節である。メモワール的な筆致で、男性によって才能を搾取され、声を奪われ、存在を虐げられてしまった幾人もの「影」としての「ヒロインズ」が綴られるこの本には、あの『華麗なるギャツビー』で有名な作家の夫スコット・フィッツジェラルドに、自分自身の文章を利用され、またある時は幽閉までされた、コレットと重なるところの多いゼルダ・フィッツジェラルドのことも語られる。いつの時代にも存在した多くの「影」、あるいは「ヒロインズ」のことを想いながら観る、コレットが多くの観客を前に舞台に一人で立つラストシーンは、だからこそより力強く感じられる。そして、高らかに宣言してみせる。コレットが影ではなく、まばゆい光に照らされ、また自らも時代に光を放つ、輝かしい存在であることを。

■児玉美月
大学院ではトランスジェンダー映画についての修士論文を執筆。
好きな監督はグザヴィエ・ドラン、ペドロ・アルモドバル、フランソワ・オゾンなど。Twitter

■公開情報
『コレット』
TOHO シネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほかにて公開中
監督:ウォッシュ・ウェストモアランド
脚本:リチャード・グラッツァー、ウォッシュ・ウェストモアランド、レベッカ・レンキェヴィチ
キャスト:キーラ・ナイトレイ、ドミニク・ウェスト、フィオナ・ショウ、デニース・ゴフ、エレノア・トムリンソン ほか
配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES
2018年/イギリス・アメリカ/カラー/英語/111分/シネマスコープ/5.1ch/PG12/字幕翻訳:山門珠美/字幕監修:工藤庸子
(c)2017 Colette Film Holdings Ltd / The British Film Institute. All rights reserved.
公式サイト:http://colette-movie.jp

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